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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第10話-20


  【双葉大】|3  |   |   |3
  【城二大】|   |   |   |0


 初回の攻撃は、1−9番まで打席が回り、3点を奪った。さすがは守備のいいチームだけあって、無死満塁の好機を最少得点に抑えられはしたが、四球が重なってのそれは、相手の勢いを萎めさせるには十分なものだった。
「………」
 大和は、球場で行われる公式戦で、本当に久しぶりの先発マウンドに立った。
(そうか。“あの時”以来に、なるのか)
 それは確か、肘を壊した瞬間だ。甲子園球場に戻って来た最初の試合で、投じようとした1球目に、それは起こってしまった。
「やっと、帰ってきたんだな」
 リリーフとして上がったマウンドとは、全く違う感慨があった。
「………」
 そんな大和の気持ちを察して、桜子は何も言わなかった。彼の世界に、立ち入ってはいけないと、桜子はそう思っていた。
 自分はそれに寄り添って、大和が思うままにボールを投げられる様に、その全てを受け止めることを一番にしなければならない。
「いこう、桜子」
「うん、いこう」
 打ち合わせは、それだけで十分だった。大和の体に漲る英気を感じ取れば、気負いも、不安も、何も抱いていないことがよくわかる。
 桜子は、自分のポジションである捕手の位置についた。
「バッターラップ!」
 好守で球場を沸かせた1番打者の速水が、打席に入る。彼は、スイッチヒッターであり、右投手の大和がマウンドにいる今、左打席に立ってバットを構えていた。
「………」
 俊足巧打の評判どおりに、各コースに即座に対応できるような、広角的な構えである。力強さこそないが、甘いところにボールがいけば、確実に打球を上手く捕らえられるだろう。
 桜子が大和に出した、初球のサイン。大和が逡巡もなく頷き、流麗なピッチングフォームが始動して、右腕が鞭のようにしなる。
「!」

 ゴオォッ! …ズバァァン!!

「ストライク!」
 と、左打者には“外角高め”の位置を貫く、“スパイラル・ストライク”が決まった。
「おおぉぉっ!!」
 たったの1球である。だが、球場内の雰囲気が、一気にざわめいた。入れ替え戦のときは、観客席はほぼ無人だったから、大和の“スパイラル・ストライク”が初めて大多数の人々にお目見えとなったことへの、周囲の反応である。
 バックネット裏には、その初球を見るなり、腰をわずかに浮かせて瞠目する初老の男もいた。すぐさま胸ポケットから手帳を取り出し、何かを書きとめていく。
「…マジかよ、本当にあれで、“控え”だったのかよ」
 一方、打席内に立つ速水もまた、投じられた1球目に度肝を抜かされていた。アウトコースの甘いところかと思えば、それが一気に伸び上がり、うねりを上げて捕手のミットを貫いていたのだ。昨年まで対戦してきた、どの投手よりも、圧倒的な球威を有するストレートであった。
「ストライク!!! バッターアウト!」
 完全に呑まれてしまった形の速水は、内角低めのストレートは見逃し、外角低めのストレートにも振り遅れ、掠りもしないまま三振に倒れた。いくら俊足であろうとも、バットに当たらなくてはそれを活かす事も出来ない。
 双葉大学の1番打者が本塁打であったのに対して、城南第二大学の1番打者は三球三振。
 試合の勝敗は、この時点で既に決していたも同然だった。


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