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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第10話-19

「さて」
 無死・一・二塁で、5番の大和が打席に立った。『“隼リーグ”特集号』では、双葉大学の注目選手として選ばれているだけあり、桜子のときと同じように、スタンドの雰囲気が落ち着かないものになった。
「ボール!」
「ボール!!」
「ボール!!!」
「ボール!!!! フォアボール!」
 まるで蛇に睨まれた蛙のように、相手投手の志村は大和に対してストライクを放れなかった。満塁策をとった、と言えば聞こえはいいかもしれないが、初回からそのような消極的な策をとっていては、勢いは生まれない。それでも、そのような策をとらせたということは、大和が持っている強打者としての雰囲気に、飲まれてしまったということなのだろう。
 6番打者の吉川が、左打席に入る。相手の内野手は、ホームゲッツーを狙い、前進守備を強いていた。

 キン!

「おっ!?」
 吉川がしっかりミートした打球は、その前進守備をあざ笑うかのように、センターの前へふわりと上がる。
「!!」
 一瞬、落ちるかと思われたその打球は、中堅手の速水がその俊足を飛ばして、ワンバウンド寸前のところで何とかグラブに収めていた。
「あー、惜しい!」
 さすがは、『“隼リーグ”特集号』でも注目選手の一人として挙げられている中堅手・速水である。その足捌きは確かに、リーグでも屈指の好選手と言えるものだった。
 結局は、浅いライナーに倒れてしまったので、タッチアップによる生還もできなかった。
 続く7番打者の浦が、打席に入る。浦の“バント打法”を目にした野手陣は、その前進守備をさらに前に押し出して、重圧を彼に与えてきた。
「!」
 ツーナッシングからの三球目を、浦が打ち放つ。一瞬、狭い三遊間を抜けるかにも思えたそれは、打球の弱さが災いしたか、相手の遊撃手に好捕されてしまった。
「アウト!!」
 まずは、雄太が本塁で封殺された。すぐさま捕手の後藤田が、素早い身のこなしで、一塁へ送球する。ホームゲッツーを完遂するには、打者走者の浦を、一塁でアウトに仕留めなければならない。
 しかし、である。
「セーフ!」
 持ち前の快速を飛ばした浦は、送球が一塁手の二村に届くよりも速く、一塁ベースを駆け抜けていた。好機に安打はできなかったが、ホームゲッツーを防いだという点は、十分に評価していい。
 8番の結花が、打席に入った。2点を奪ったものの、無死満塁の好機をむざむざ逃してしまっては、勝機はするりと逃げてしまう。
「ボール!」
「ボール!!」
「ストライク!」
「ファウル!」
「ボール!!!」
「ファウル!」
「ファウル!」
 だから、ここでも結花は、持ち前の粘り腰を発揮していた。相手投手の志村は、典型的な制球重視の右腕投手であったから、結花もボールが追いやすかった。
「ボール!!!! フォアボール!」
 結果、押し出し四球を選んだ結花は、無打数ながら打点1を計上したのである。
「片瀬、ナイス選だ!」
 一塁コーチボックスに立つ若狭が、地味ながら好機をものにした結花に、労いの言葉をかける。
「ありがとうございます、若狭センパイ」
 本当なら、最終学年でもあるから、念願の1部リーグでの試合で、グラウンドに立っていたいはずだ。それでも、チームのためにあえてベンチにいることを選んだ先輩だから、結花はその気持ちに応えるべく、全力を挙げて試合に臨んでいる。
 チームの更なる結束を生んでいるのは、間違いなく、一塁コーチボックスに立つ若狭の功績である。
「………」
 9番打者の航が、静かに打席に入った。バットを構えた瞬間、なにか静謐なものがグラウンドの中に満ちていく。
((これが、9番目にいる打者なのかよ!?))
 相手バッテリーは、余りにも貫禄のある打席内の航に、明らかな畏怖を感じていた。

 キィン!!

「うおっ!」
 甘いところに入ってきた二球目のストレートを、航の鋭いスイングが打ち放った。それは低い弾道でありながら、左中間に強烈な当たりとなって飛んでいく。
 普通ならば、間違いなく抜けていた当たりだ。しかし、城南第二大学の中堅手は、“隼リーグ”でも随一の守備範囲を誇る速水だった。
「アウト!!!」
 グラブと身体をを必死に伸ばして、航の打球を掴み取った速水。その勢いを殺しきれず、横転してしまったが、彼はボールをグラブから落としはしなかった。
 大量失点を防ぐ、超ファインプレイを見せたのである。さすが、というべき彼の守備に、球場内が大きく騒いだ。
(このチーム、下馬評とは全然違う!)
 一方で速水は、自分を称える球場内の雰囲気など知らぬかのように、強烈なプレッシャーを浴びせかけてきた双葉大学の電光石火の攻撃に対して、試合前に感じていた余裕など既になくしていた。


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