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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第10話-21


  【双葉大学 対 城南第二大学】
  【双葉大】|300|101|010|6|
  【城二大】|000|000|000|0|


「ストライク!!! バッターアウト!!! ゲームセット!!!」
 どおっ、と球場内が一気に沸いた。大記録が生まれたからである。
 城南第二大学の最終打者は、9番の志村だったが、彼は追い込まれてから投じられた大和のウィニングショット“スパイラル・ストライク”に手も足も出ず、力のないスイングで空振り三振を喫した。
 27人目の打者に対して、奪った三振が22個。大和は、誰の一人も出塁を許さず、外野の守備機会もゼロという、まさに完璧な投球内容で“完全試合”を達成したのである。しかも、投球数は、100球にも満たない。
 確かに城南第二大学は、打力の劣るチームではあったが、それにしても、大和の投球は圧巻の一言に尽きるものだった。
「このパンフレットは、もう使えないな」
 スタンドからは、そういう言葉も聞こえてきた。双葉大学の実力を、過小に評価している記事にはもう、何の価値もない。
「NICE GAME!!」
 いきなりド派手な結果を残した大和を始め、母校に完勝したメンバーたちを、喜色満面で迎え入れるエレナ。1部リーグの初戦で、勝点3を奪取した幸先のよい結果は、今後の戦いの励みにもなる。
「大和、ナイスピッチだったよ!」
「まあ、派手なことやりやがったな、こいつ!」
「センパイ、相変わらず、凄すぎです…」
「さすが、ですね」
 ベンチの前では、大記録を生んだ大和を囲んで、祝福の輪ができていた。
 大和は記録そのものには興味はないが、公式戦で、最後まで球威を失わずに完投できたことに、更なる自信を深めていた。“スパイラル・ストライク”を、相手に意識させながら、要所でしかそれを使わない桜子のリードにも、上手く導かれての結果である。
(いける)
 大きな自信が胸に宿った。歓喜の輪に包まれながら、大和は見つめていた自分の右腕から視線を移し、不意に顔を観客席に向けた。
「!」
 ベンチの真上。一番の手前。人がいた。女性だ。その女性が、自分を見ていた。
 まるで刺すような、冷たい視線だった。それが、自分に向けられている。
(あ、のひと、は……!?)
 その女性に、見覚えがあった。見間違えるはずが、なかった。
「………」
 ニタリ、と、視線が合ったとき女性の頬が妖しく歪んだ。微笑んだのだろうが、決して、再会を喜ぶようなものではないそれに、大和の心が冷たく凍り付いていく。
 何も言わず、女性は身を翻して、そのまま観客席の階段を昇っていった。まるで、自分の姿を大和に見せに来ただけ、と言わんばかりの素気無い仕種であった。
「大和?」
 歓喜の輪が解けて、それぞれが荷物をまとめるためにベンチに戻っていく中、動きを止めたままの大和に気づいた桜子が、すぐさま近寄り、顔を覗き込む。
「ど、どうしたの?」
 大記録を達成したときとは全く違う、血の気が失せたようなその表情に、桜子は狼狽を感じた。大和がこれまで見せたことのない、表情でもあったからだ。
「あ、ああ。ゴメン、桜子」
 大和は、見慣れた恋人の顔がすぐ近くにあることに気づき、ようやく我を取り戻したようになった。
「いきなり、すごいことをしちゃったから、これから逆に不安になったんだ」
「………」
 大和が嘘を言っていることは、すぐにわかった。それも、桜子の中に不安をいや増していく。
(どうして、あの人がここに……?)
 そんな桜子の不安にも気づかず、大和は再び、自分に向けられた女性の冷笑に、心を騒がせ始めていた。
(葵さんが、どうして……)
 大和の胸の中は、忘れてしまっていた過去の想い人によって占められ、完勝した今日の試合については、隣で顔を曇らせている桜子のことも含めて、もう完全に、置き去りになってしまっていた。


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