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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第9話-30


(大和の言うとおりだった)
 打席に入る前、耳打ちされていたことがある。
『追い込んでからの決め球は、カットボールだ』
 速球と途中まで同じ球筋を追いながら、途中で鋭く変化する。それが、カットボールである。だが、松永のそれは、一般的なカットボールとは違い、ブレーキして沈む軌跡を描く。スプリットフィンガーの要素も併せ持っている、独特の変化球である。
『カウントが整えば、確実にそれを投げてくる』
 カットボールは本来であれば、空振りを狙う球ではない。微細な変化によって、バットの芯を外し、ゴロに打ちとるのが目的の、速球派投手として持ち球にしておきたい変化球だ。
 変化そのものは、カーブやスライダーに比べれば、それほど大きくはない。しかし、松永のカットは、ブレーキがかかって沈む要素が入っているので、ストレートに意識を向けすぎると、空振りを喫することもありうる。現に、岡崎と雄太は、そのカットによって三振に倒れている。
 だから桜子は、直球にブレーキのかかる一瞬を狙った。振り遅れになる可能性を承知の上で、松永のカットに、果敢に挑みかかったのだ。
 桜子のチャレンジは、見事に成功した。
「よし」
 次打者は大和である。4番から5番に移ったが、打順に対するこだわりはない。むしろ、桜子が目の前で好機の道筋を作り出してくれたものを、どういう風に広げていくか考えながら打席に入るのは、彼にとって楽しみなことだった。
(今のこの人から、普通に連打を奪うのは、並大抵じゃない)
 大和は、桜子に二人だけのシークレットサインを送った。
「!」
 初球に、動いた。桜子がスタートを切ったのである。足に古傷を抱える桜子は、走力に関してはチームの中でも、タイム的にはもっとも遅い。
 だが、あえてここで仕掛けてきた。
 桜子がスタートを始めた瞬間、大和はバットを水平にした。バントである。

 コッ!

 と、軽い音がしたかと思ったら、それは一塁側のライン上を転々としていった。送りバントでないことは、その打球からよくわかる。
 二人の間で交わされたサイン。それは、ラン・エンド・バントであった。
 投手の松永が、打球を追いかける。程よく勢いを抑えられていたそれをグラブで掴むと、すぐさま一塁へ送球しようとした。体勢的にも、状況的にも、二塁は間に合わないと判断したのだろう。
「むっ!?」
 だが、ベースカバーがいなかった。桜子の動きにつられて、遅れてしまったのだ。ライトからのバックアップも走っているが、間に合いそうにない。
 松永はやむなく、自ら一塁ベースを踏もう駆け出した。しかし、大和はすでに先を走っており、途中で間に合わないと判断した彼は、体の向きを変えて、サードへの送球体勢をとる。
「桜子、ストップ!」
 三塁コーチボックスに立つ、品子が両手で大きく“×”を作った。
「うわ、とと…」
 それを見て桜子は、二塁を廻ったところでスピードを落とし、すぐさまベースに足を乗せた。
 無死・一・二塁と、更に好機を広げたのである。
「す、すまん、松永」
 ベースカバーが遅れた二塁手が、自分のミスに恐縮していた。
「気にせずに。あれは、攻撃側を誉めましょう」
 それを攻める素振りもなく、松永は淡々とした表情を崩さなかった。
 単なる送りバントではなく、まず桜子を走らせてから、野手の動きをかき回しておいて、自分もバントで生きる。同じ試合で二度とは通用しないだろうが、試合の序盤で動静が揺らいでいるこの状況でこそ、決まりやすい一手だったといえる。


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