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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第9話-29


「あの人、やっぱり松永さんだよね」
「別人みたいだけど、間違いないよ」
 マウンドで顔を寄せ合う、桜子と大和である。
「本気で野球をしている、そんな雰囲気だ」
 ベンチで、捕手と入念に打ち合わせをしている松永の様子には、真摯にこの試合に取り組んでいる姿勢がはっきりと見て取れた。
「元プロの選手だよね、確か」
「東京ガイアンズのドラフト1位だった人だよ。結構、騒がれていたから覚えてる。1軍の試合にも出たことがあるし、ホームランも2本ぐらい打ってる」
 たとえ通算成績では奮わなかったとしても、プロ野球の1軍で投手ならば1勝を、打者ならばヒット1本を放つことが、どれだけすごいことなのか、一般の目にはわかりにくい。ましてや、ホームランを打つとなれば、これはもう、草野球の世界から見ると、月に行くイメージといっても差し支えないだろう。
「あの時の松永さんじゃない。全力以上の全力で、対戦しないといけないな」
「そうだね」
 1打席目は戸惑いの中で終わってしまった。次からは気力を振り絞って相対しなければ、打ち取れる打者ではないことを、桜子と確認しあう大和であった。
「アウト!!! チェンジ!!!」
 それぞれ、外野フライと内野ゴロに打者を打ち取り、はやばやと2回表が終了する。松永の凄みを体感している今、他の打者の脅威は全く感じられない。
「さて、と。いきますか!」
 4番に入った桜子の、第1打席である。大和からその座を受け継ぐ形になった桜子は、最初は不安な気持ちもあったが、次に控える打者が大和だという点に、心の落ち着きを得ることが出来た。
 右打席に入り、構えを取る。
 ドリーマーズの捕手は、例の草野球大会と変わらない選手だったから、あの大会で何本も本塁打を打ち、度肝を抜かされたときのことをよく覚えていた。
「ボール!」
 外角にストレートを投じたのは、誘いをかけているからだろう。桜子はその意図をきちんと読み取り、早い仕掛けをすることなく、慎重に球筋を追いかけた。
 松永には、過去に顔にデッドボールを食らわされた思い出がある。もちろん、それが“失投”であることは桜子に分かっていたから、遺恨など何も抱いてはいない。ただ、内側にボールが集められるかもしれないという予感は、その時の体験がさせたものだ。
「ストライク!」
「ストライク!!」
 だが、ボールは外側に集中していた。桜子を内角で攻めても、腰を引かせることができないとわかっているからだろう。その更に厳しいところを攻めてきた以前とは違い、あくまで外角を中心の組み立てが変わらなかった。そこに、ダーティーな試合運びで周囲を辟易とさせた、当時の匂いは全く感じなかった。
「ボール!!」
 これで平行カウントになった。バッティングカウントでもあり、ピッチングカウントでもある。お互いの実力が、最大限でぶつかる瞬間がこのカウントだ。
「………」
 おそらく、松永は自分の一番自信のある球を放ってくる。桜子は、グリップを引き絞り、自らの体に持っているバネを総動員して、力を溜め込んでいく。
「!」
 乱れのないピッチングフォームから、アウトコースへ直球が来た。
(まだまだっ…!)
 軸足に体重を乗せたまま、スイングの始動に間を残す。
 ぐ、と直球に変化の一瞬を見た。
「たあっ!」
 それを見極めた桜子は、球筋の着地点を予測してバットを繰り出した。並ならぬ動体視力が成せる技である。

 ドガキン!

 と、桜子独特の打球音を鳴らして、鋭い当たりがライト前に飛んだ。結果的に流し打つ形となったが、桜子自身はそれを意識したわけではない。スイングの始動を遅らせた分、バットとボールの衝突するタイミングが、キャッチャー寄りになったことで、打球の方向がライト側に向いたのだ。
 相手二塁手がグラブを差し出すが、もちろん届くことはなく、打球はそのままバウンドして、右翼手のグラブに収まった。桜子はすでに、一塁ベースを踏んでいた。
 安打を放ったのである。4番として初の打席で、上々の結果といえるだろう。


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