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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第9話-28


「お嬢ちゃん、しばらくだったな」
 相手もそれを覚えていて、気さくに桜子に笑みかけてきた。
「今更だが、あの時はいろいろと済まなかった」
 殊勝にそういう姿は、まるで別人のようであった。
「よろしく」
 言うや、ヘルメットのひさしに指をかけて、マウンド上の大和にも会釈を送る。そのスポーツマンシップ溢れる姿勢に、桜子はやはり、同じ人物とは思えない印象を抱いていた。
(松永さん、だよね。確か…)
 あの時はチームが違ったはずだ。しかし、左打席に入って、全くスキのない雰囲気を持ったその構えは、間違いなく、桜子たちが例の草野球大会で対戦した松永のものであった。
 どのような経緯でドリーマーズに加わっているのか分からないが、とにかくあの時とは態度も姿勢も180度変わっていて、桜子は戸惑いを隠せない。
「ボール!」
 大和も同じだったのだろう。左打者にとっては外角高めの位置になる“スパイラル・ストライク”が、珍しくも高めに外れてしまった。
「いい球を投げるんだな」
 感心したように、その松永が言う。その口調には、かつてのような陰険さや狡猾さは微塵もなかった。
「ストライク!」
「ボール!!」
「ファウル!」
「ファウル!!」
「ボール!!!」
 フルカウントまで、粘られた。内外角の低めに、際どいコースを投げ分けていたのだが、カットで上手い具合に逃げられ、振り切れない。
「!」
 粘り負けしたように、半個分ボールが内側に入った。

 キィンッ!

 と、その失投を見逃さず、巧みなバットコントロールと鋭いフォロースルーで、お手本どおりのセンター前ヒットを放たれてしまった。
 さすがは、元・プロ野球選手のバッティングである。全ての動作が洗練されていて、今まで対戦してきたどの打者よりも、その手強さは群を抜いている。
「ナイスバッティング! 松永!!」
 4番に座る鈴木の言葉に、やはり彼は慇懃な様子で頷いていた。
「よっしゃ、俺も続くからな!」
 言いながら、右打席に鈴木が入る。
「アウト!!!」
 桜子と大和は、松永の後の対戦だっただけに、鈴木にさほどの脅威を感じず、ボール球に簡単に手を出してきた彼をショートゴロに打ち取っていた。
 攻守が切り替わり、ドリーマーズのマウンドには、その松永が立った。例の草野球大会では、右横手投げの今井という選手が主戦投手だったはずだが、その今井は外野の守備位置についている。
 おそらく、ドリーマーズのエースを務めているのも、この松永なのだろう。草野球大会のときも鋭い球筋のストレートを投げていたが、あの時はグリスを使った不正投球もしていた。
「プレイ!」
 だが、今回はその素振りを微塵も見せることなく、左打席に入った1番打者の岡崎の構えを見定めてから、草野球大会の時よりも幾分大きくなったピッチングフォームで初球を投じてきた。

 ズバァン!

「ストライク!」
 岡崎がぴくりとも動けず、外角低めの直球を見逃していた。
(速いし、キレもある)
 2部リーグや1部リーグ入れ替え戦でも、お目にかかったことのない速球だった。
「ストライク!!」
 二球目は内角低め。厳しいところを責められて、岡崎は自分の振りをさせてもらえない。
「ストライク!!! バッターアウト!」
 三球目。真ん中に来たストレートを、勢い込んで振りにかかったが、途中でブレーキがかかり沈んでいった。バットを中途半端に止めた格好となった岡崎だが、スイングを取られて三振に倒れた。
「やられた」
 完敗である。手も足も出なかった。
(最後の球、あれはスピッツボールじゃない)
 ベンチから松永の挙動を追いかけていた大和は、不正投球の仕草を見せることなく放った三球目の変化球に驚きを隠せなかった。
 2番打者の栄村も、敢え無く三球三振に倒れ、3番打者の雄太が左打席に入る。
 ストレートの球筋をしっかり見極めるため、ツーストライクまでは全く打つ素振りを見せず、ボール球は得意のバットコントロールでカットし、とにかく粘りの姿勢を見せた。
 しかし、である。
「ストライク!!! バッターアウト!!!」
 六球目に投じられた、ストレートから一気に沈んでいく球に食らいつけず、空振りの三振に打ち取られてしまった。
「畜生めっ!」
 初回の攻防は、松永の安打こそあったが、互いに無得点で終了した。


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