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ガラス細工の青い春
【純愛 恋愛小説】

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10-2

 二時間目の終わりまで保健室で休ませてもらうと吐き気は大分落ち着いた。日直の鈴木君が様子を見にきてくれたので「もう大丈夫です」と保健医に伝え、清香は鈴木君と教室に戻る事にした。礼を言った清香に鈴木君は軽く頷いて返事をした。
 教室に戻るにも気力がいる。また何か言われるのだろうと思うと、足が鉛のように重くなる。早く、部活に行きたい。教室には戻りたくない。淀んだ空気を想像すると、また胸焼けのように気分が悪くなる。
 渡り廊下を歩いていると、向かいから留美が歩いてきた。知らぬ振りをして通り過ぎるのだろうと思って清香は目を合わさず鈴木君の後ろを歩いていると、何故か留美はこちらへ掛け寄ってきた。
「清香、大丈夫? 風邪?」
 留美は肩を抱くような仕草をする。清香は不審な顔をしながらも「大丈夫」とだけ答え肩に乗った腕を解き、異様な雰囲気に戸惑う鈴木君に「行こう」と声を掛けて教室に向かった。
 ドアを入った時の視線が、とても冷たく、痛い。清香にとって初めての経験だった。いじめ、シカト、無視。無意識にいじめる側に加担している事はあっても、いじめられる側になった経験はなかった。教室という日常空間にいるだけなのに、こんなにも気力を使うのかと、目眩を覚え、縋り付くように席に着く。
 今日は一度も圭司と話していない。誰も話し掛けて来ない所を見ると、「昨日」いたメンツは清香を抜かした七人だったのだろう。昨日何かがあった。だからこうなっている。圭司は何かを知っている。だから清香に話し掛けて来ない。曲がりなりにも「彼氏・彼女」の関係なのに、こういう仕打ちを受ける事に清香は惨めな気持ちになり、項垂れる。
 後から教室に戻ってきた留美は、先程とは一転して、清香に対しあからさまに嘲笑を含んだ一瞥をくれると、自席に戻って行く。そしてまた「昨日」の話をし、そこにいなかった清香を槍玉に上げ、笑う。
 醜い、笑い声。蔑みの視線と嘲笑。
 その日、清香は自分の席で一人で弁当を食べた。さっさと食べ終えて、部活の仲間の所にでも行こうと考えていると、学食から戻ってきた優斗が、ふらりと清香の席に近づいた。清香の後ろの方で「ちょっと優斗!」と咎める声がするものの、優斗は清香を見つめている。
「何」
 そっけない清香の言葉に、優斗はしゃがんで机に頬杖をつくと「大丈夫?」と瞳の色を伺うようにじっと視線を寄越す。
「優斗こそ大丈夫なの? 私の所なんかにいるとあの人達に何か言われるんじゃない? つーか実際呼ばれてましたよ、優斗君」
 ちらっと清香の後ろに視線をやり「別にいいんでない?」と軽く笑う。清香の視線の端に圭司が映った。彼が席に着くと、そこへ留美が歩いて行って、何やら話をしている。
「大丈夫?」
 再び同じ事を訊かれ、清香は頭を抱えた。「私、あんた達に何かした?」
 自分では抑えていた筈なのに、心は声に出てしまう。震える声を優斗は優しい瞳で受け止める。
「清香が何もしてないと思ったらそれでいいと思うよ。あいつらは」
「優斗! ちょっと!」
 後ろから声がかかり優斗は話の腰を折られ「ごめん」と言うと去って行った。優斗はあの人達と共謀するつもりはないようだが、それはそれで優斗の立場を危うくしてしまうのではないかと、清香は混乱する。
「なんかー、秀雄に告られたとか言ってたんでしょ、あの女」
 咲の甲高い声が、頭の後ろに突き刺さる。鉄球でもぶつけられたような衝撃を受ける。夏祭り、隣に座った秀雄の挑戦的な笑顔が浮かぶ。咲にその話をした覚えはない。誰が話をしたんだ。
「まずあんな女、俺の趣味じゃねーし。自分がモテるとか思ってんじゃね? 超勘違い女。自意識過剰って机に貼っとこーぜ。背中にするか」
「触るのー? マジ勘弁」
 話題の中心にいるのは咲と秀雄。そこに同調する留美と幸恵。雅樹は話にはのっていないけれど、共謀しているのだろうか? 圭司は相変わらず、何も言わないまま、自分の席について脚を組んでいる。



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