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ガラス細工の青い春
【純愛 恋愛小説】

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10-1

 県大会の初日は祝日で、遠征という事もあり、朝早くに家を出た。駅に着く頃『頑張れよ』とひと言、圭司からメールが届いた。
 清香は『ありがとう』と返信し、財布の中にある裏ボタンを確認してから電車に乗った。
 しかし、県大会は一回戦で敗退した。相手チームはデータこそないけれど強豪校で、ベンチのメンバーを当ててきたらしい事が後から分かった。それを知った部員達は涙を流した。しかし、ベンチメンバーを相手にしても、殆ど点が奪えないような、一方的な試合展開で、歯が立たなかったのは事実だ。
 悔しさとは裏腹に、これから少しは圭司と過ごす時間が出来るかも知れないという期待も生まれたが、勿論清香はその事を、チームメイトには言わずにいた。ふざけてでも言える雰囲気ではなかった。

 翌朝、いつも通りに教室に入り、自然に目がいった咲に「おはよう」と声を掛けた。返答がなく、聞こえなかったのかと思い、咲の席に近づくともう一度「おはよ」とはっきりした声で言うと「あぁ」と言う声と、怪訝な表情が寄越された。それから咲は隣に座る秀雄の方を向き、お互い苦笑するのだった。清香は暫く唖然としたが、朝早くに、咲達の機嫌を損ねるような事件でも起きていたのかも知れないと考え、自席に座った。
 しかし、咲は後から教室に入ってきた留美と幸恵には「おはよー」と明るく声を掛けている。しかも、清香が「おはよう」と声を掛けた事に対して、二人とも返事をしない。誰も清香の声に反応しようとはしない。

 何、なにがあったの。何が起きているの。
 胸の中に渦巻く何かが、身体を冷やして行く。全身から血の気が引いて行くような感覚があって、息苦しいような気がして、清香は大袈裟なぐらい数回、深呼吸をしてみる。

 いつもは窓際まで歩いてくる圭司が、今日はすぐに自分の席に着いた。朝の挨拶もない。雅樹は後ろのドアから入室したようで、いつの間にか席についていた。唯一、優斗だけが「おっはよ」と言っていつも通りに横を通り過ぎて行ったけれど、他があまりにもショックすぎて、反応が出来なかった。

 私が何か、したのか? 清香は自分の胸に手を当てて考えてみるも、思い当たるフシはなかった。

「昨日は超面白かったねー! また集まってやろうよ」
 咲の大袈裟なまでの「超」という言葉が耳につく。声の大きさも手伝って、清香には不快だった。まるで「昨日」「そこに」居なかった自分に対して投げつけるような物言いだった。
「つーか、あいついなくて良かったね。何か、あいつがいると白けるし」
 ずん、と胸の底に冷たい重りでも降ってきたような感覚があった。息が浅くなる。同調する秀雄の声が耳に大きく響く。
「しらっとしてんもんなー、あいつ。いなくて正解」
 幸恵も、留美も加わって、「そこにいなかった人」についての話題で持ち切りだ。
 どうひいき目に捉えても、それが清香の事を指して展開されている話なのだろうという事は、清香が一番分かっている。全ての会話の音声が、わざとらしく清香の方に向けて発せられているから、それ以外に考えられない。
 急に襲われた吐き気で、目の前が真っ青に染まる。口元を軽く押さえたまま席を立ち、その日日直だった鈴木君に「保健室行ってくる」と言って教室を出た。途中、トイレに寄って少し嘔吐し、それでも収まらない軽い吐き気を抱えたまま、保健室に向かった。



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