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ガラス細工の青い春
【純愛 恋愛小説】

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10-3

 翌朝も同じだった。教室に入るなり、秀雄と咲の冷たい視線と嘲笑。清香は一応おはようと声を掛けたけれど、返事が来る筈もなく、勿論期待もせず。昨日と同じ流れだった。全員揃った所で清香への中傷が始まる。
 一対一だったら、何か言い返せたかも知れない。二対一でも平気だっただろう。しかし現状、六対一。これでは清香が白を白と言っても向こうが黒と言えば黒になってしまう。
 背後から浴びせられる罵詈雑言をなるべく耳に入れないようにして、教科書に目を落とす。視線の片隅に、線の細い女子生徒が映ったので顔を上げる。三上さんだった。
「どうしたの?」
 清香がパタンと教科書を閉じて彼女を見ると、三上さんはとても言い難そうに口を少し動かした後に、やっとの事で口を開いた。
「何か、川辺さん達が清香ちゃんに、色々言ってるみたいだから、大丈夫かなって。清香ちゃん。昨日、保健室行ってたし」
 緊張した面持ちのまま自分を心配してくれる三上さんに、清香は無理矢理作った笑顔で「大丈夫だよ。相手にするつもりないし」と笑いかける。三上さんも、危うく泣き顔のようにみえる笑顔で返す。
「清香ちゃんって、強いんだね。私だったら泣いちゃうよ、あんな風に皆の前で言われたら」
 三上さんのふんわりとした優しい声を聞いていたら余計に辛くなってきて、「あんまり私と関わらない方がいいよ」と言い、彼女を席の方に押し帰した。すると入れ替わりに背が高い学ラン姿が視界を遮る。見上げると、登校してきた優斗だった。
「優斗!」
 また後ろから声がかかるのだが、彼は気にせず清香の目の前にしゃがみ込み、話を始める。
「一昨日、清香以外の七人で集まってさ、学校の裏にあるちっさい公園で酒飲んだんだ」
 清香は訊ねてもいない「あの日」の話が始まって拒絶したい気持ちだったが、きっと優斗は何かを伝えたいのだろうと思い、「それで」と先を促す。肩にかかった鞄がずり下がってきたのが鬱陶しかったのか、どさっと床に置く。その時丁度、圭司が教室に入ってきた。
「でな、酒が入って酔ってたんだ。留美と圭司が、うん、キスしてさ。付き合うって言いだした」
 顔面を両手で覆った。それに意味があったとは言いがたい。目一杯手をひろげて、惨めさに歪んだ顔を押し潰す。唇が小刻みに震える。自分の力ではどうする事もできない不随意運動を受け入れる。泣いていたのかも知れない。しかし泣いている事を優斗に悟られると、優斗は自分に優しくすると思い、清香は必死に涙を堪えた。優斗は何も言わず、その場にしゃがんでいる。静かな息づかいだけが、頭の上から降ってくる。
 背後から乱暴な足音が近づいてきて「優斗、何でこんな奴の所にいるの」と咲が優斗を連れて行った。

 留美と圭司がキスをした。付き合う事になった。二人がそう言う選択をしたのなら、それは仕方のない事。酒が入っていようとも、翌日その事実を翻さなかったのだから、清香に勝算はない。留美と圭司が教室で二人きりで話をしていた日の事が思い浮かんだ。留美はずっと、圭司を思っていたのかも知れない。
 それと自分がいじめられる事と、何の関係があるのか、清香にはさっぱり分からなかった。


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