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ガラス細工の青い春
【純愛 恋愛小説】

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-2

 帰り支度をすると、圭司の席へ歩いて行く。
「圭司、今日ミーティングの日だけど、帰りどうする?」
 圭司はうーん、と暫く考えて「門の辺りで待ってる。もし居なかったら電話して」と言って携帯を指差した。
「了解」
 清香は鞄を持って部室へ移動した。
 ミーティングの日は三十分程で部活動が終わるため、圭司は清香を待っている事が通例になってきている。それでも毎回、圭司に確認してからミーティングに行くのは、圭司の予定を自分の予定で潰したくないからだった。
 ミーティング中に、今日の授業で使ったジャージを教室に置いてきてしまった事に気付く。誰よりも先に部室を出て、誰にも見られないうちに圭司と落ち合って帰りたかったのになぁと、シャーペンを回しながら考える。市の予選会を通過した清香達バレー部は、県大会に出場する事になった。ミーティングにも力が入る。しかし清香の頭の中は空っぽだ。ミーティングをしたところで、対戦相手のデータが何もないんじゃ話にならない。結局は「気合い論」になってくる。ペン回しを続けていたら、とんでもない所へペンが飛んで行ってしまった。
 ミーティングはいつもより三十分も長く続き、終わるとすぐに席を立ち教室へ急いだ。各教室には数人ずつしか人が残っておらず、主に聞こえるのは運動部が外を走るかけ声ばかりとなっていた。夕方になり薄暗くなった二年六組の教室に小走りで入ると、目の前に意外な二人が並んでいた。
 圭司と留美だった。圭司の顔は驚いたまま引き攣り、留美はなぜか口を塞いでいた。
「あれ、二人?」
 軽く息を切らせながら清香が声を掛けると「うん」と二人が別々のタイミングで返事をする。
「ジャージ忘れちゃってさぁ、取りにきたんだ。何か、大事な話してた?」
 留美が「いやいや」と腰掛けていた机から立ち上がり「もう私は帰るから。それじゃ」と言って教室を走り出て行った。清香は怪訝気な顔で「何なの? 何の話してたの?」と訊ねると、圭司は「特別な話をしてた訳じゃないよ。雑談」と言う。
「にしては変な感じだったね、留美」
 ジャージを袋に詰め込み鞄を持つと、圭司も立ち上がり「さーて、帰るか」とわざとらしいぐらいに声を張る。何だか話をはぐらかされたようだと清香は不審に思う。

「土日はもう休みなしなの?」
 そう問う圭司の声に頷く外なかった。大会が近い。それも県大会だ。
「どっか行ったりとか、全然してないね。お祭り以来」
「だよな。だって清香が忙しいんだもんな、部活で」
 そこを言われると弱かった。好きで始めた部活。いくら相手が彼氏でも、譲れない。部活を引退すれば今度は受験勉強に入るだろう。だから「引退したら暇になる」なんて無責任な事も言えない。
「うちの学校にサッカー部があったら良かったのにね」
「そしたらもっと遊べないだろ」
 そっか、と清香はこめかみを掻く。現状を打開する案は今の所皆無で、県大会で負けて一段落つくまでは、土日はびっしり部活が入っているので、圭司の声に応えられない清香は「ごめんね」と呟くほかない。
「なあ、裏ボタンの話、知ってる?」
 急に話題が変わり、「へ? 何それ?」と訝しんだ声を出した。圭司は前を開けた学ランをヒラヒラと振って見せる。夕日が、学ランに並ぶ金色のボタンに鈍く跳ね返る。
「学ランの第二ボタンは好きな人にあげるっていうじゃん。あれな、うちの学校じゃ、卒業前は裏ボタンをあげるんだって」
 へぇ、と清香が相槌を打つと、圭司はポケットに手を突っ込み、黒い小さなボタンを取り出した。
「これ、俺の裏ボタン。第二ボタンの裏に付けてた奴ね。卒業する時に第二ボタンと交換な」
 差し出され、清香は圭司の手の平から小さなボタンを拾い上げると「ありがとう」と言ってじっと見つめる。卒業する時に。卒業するまで、圭司の隣にいられる権利。校章が掘られた何の変哲もないその黒いボタンが、何か特別な意味を持つと思うと煌めいて見える。ボタンをぎゅっと強く握る。
「お守りみたいなもんだな。多分。なくすなよ」
 笑いながら肘で突かれ、清香も「うん」と微笑むと、そのボタンを財布の小銭入れに仕舞った。
「試合にも持って行くよ」
 鞄に財布を仕舞い、腕を下ろす。清香の手と何となく触れた圭司の手に、再度触れたとき、清香は意を決してその固い手を掴み、握った。圭司は少し驚いたような顔で清香を見たけれど、その顔を少しはにかんだような笑顔に変えて歩を進めた。


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