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たねびとの歌V
【ファンタジー 官能小説】

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ミッキィ-1

「助けてえっ!」
娘っ子が一人そう叫びながら玄関に飛び込んで来た。
恐怖に引きつった顔をして。上がれとも言わないのに靴を脱ぎ散らかしていきなりわしに抱きついて来た。
「おじ……おじ……お爺さん……わたし襲われたの……」
そして少しわしから離れるとわしを見上げた。
歯がカチカチと鳴って全身が震えている。
そして羽織っている白いウィンドーブレーカーの左袖を上げて見せた。
鋭い刃物で切ったように裂けている。内側から血がにじんでいるようだ。
「切られたのかい、あんた。傷見せてみなさい」
わしは驚いてそう言った。すると震える手で娘っ子は左の袖を先に脱いだ。
そのとき下に着ていた蛍光イエローのタンクトップが見えた。
それは胸の谷間が見える大胆なデザインだった。
わしは袖を抜いた左腕の傷を見た。
下腕の外側に長さ10cmほどの真新しい傷がついていて、深さはわからないが血が滲んでいる。
「よく見せてくれ……」
「待って……これ脱がなきゃ……」
わしがもっと見ようと顔を近づけると、娘っこはそう言って左手を動かした。
左手で右の襟を持って一気に右袖を脱いだんだが、手が中に着ているタンクトップの右の肩紐を一緒に掴んだらしく、右の乳房がぽろっとむき出しになった。
そんなことにも気づかず娘っ子は上着を床に落すと、左腕をわしに差し出した。
「すみません。包帯かなんかありませんか?」
わしは物も言わず、素早く娘っ子の肩紐を引っ張って片乳を元通りにしてあげると、救急箱を取りに行った。
幸い皮は切れてるが肉までは切れていないようだ。
縫合するまでのことはないだろうと思った。わしは一応傷薬を塗ってから包帯を巻いてあげた。
娘はようやく落ち着いたらしくわしに頭を下げた。
「ありがとうございます、お爺さん。
ずっと誰かに後をつけられて怖くなって逃げたら、この近くで追いつかれていきなりカッターのようなもので切られたんです。
若い男でしたが、見覚えもない知らない男でした。
普通の痴漢なら良いんですが、通り魔は困ります。
あれ……?」
話しの途中で娘はきょろきょろ家の中を見回した。そしてわしの家の中を見ながらあちこち歩き始めた。
「いったいどうしたんだい?なにかわしの家におかしなところでもあるのかい」
「違うんです。この家……前にも見たことが……」
「そんな筈ないだろう? あんたがここに来たのは今日が初めてなんだから」
「でも、この間取り、そして家具や置いてある位置まで……もしかして」
そう言うと奥の部屋の戸を開けた。そして悲鳴を上げた。
「キャーッ」
そしてその入り口のところでへたへたと座り込んだ。
わしはその背中に向かって聞いた。
「何があったんだ。わしの寝室がどうかしたのかい?」
「同じなんです。何もかも毎晩見る夢に出てくる家と……」
「えっ?」
「お爺さん、私この家の居間をさっき一瞬しか見てませんでしたね。
でも、言えますよ。今私の後ろにある家具の種類とか配置を……」
そう言って、その娘っ子はわしと居間に背を向けたまま置いてある家具の種類と位置を全部言い当てた。
そして壁についている染みの形やカレンダーの写真の子犬の数まで言ったのだ。
言っている最中わしは娘っ子の顔をそっと覗いたが、娘っ子は目を瞑って言っていたんだ。
そして今度は回れ右して、わしの方を向いて言った。
「そしてお爺さん、私は一瞬しか奥を見てないけれど、奥の様子も言えるよ。
私が居間に移るからお爺さんは戸を閉めてよく中を見てて」
わしは言われた通り戸を閉めて奥の寝室の様子を見ていた。
すると娘っ子は仔細にいたる部分まで全部言ってのけた。
わしは戸を開けて言った。
「あんた。全くその通りだ。どうしてわかったんだ。」
「だから……」
わしはその娘っ子の顔を見た。ちょっと浅黒いが整った顔で、美人の部類に入ると思われた。
年は20代初めと言ったところか。
眉が男のようにきりりと逞しく、笑うと犬歯が目立つ活発そうな娘っ子だった。
だがその娘っ子はわしの顔をじっと見ると、顔を近づけて来た。
わしはキスでもされるのかとドキドキしたが、違ってた。娘っ子は言った。
「お爺さん……、もしかして若い頃の写真ってある?」
意味が分からないが、言われるままアルバムを出して見せた。すると……。
「お爺さん、やっぱりお爺さんだったんだ。夢で現れた青年は……」
何度もわしの若い頃の写真とわしを見比べながら目を見開いていた娘っ子は叫んだ。
そしていきなり正面からわしに抱きついて来た。
「スティーブン! ミッキィだよ、わたし。とうとう会えたね」
「いや……わしはヒデオという……」
そういうわしの口を娘っ子……そのミッキィと名乗る娘っ子は蜜柑の房のような唇で甘酸っぱいキッスをしてきたんだ。
わしゃ驚いたのなんのって。
 


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