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先生と銀之助
【ファンタジー その他小説】

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零章 出会い-2

私の家は、先程も申したとおり、一軒家である。とは言え、小さいものだ。平屋で、居間が七畳、寝室が六畳、仕事部屋が六畳、小さなキッチンと無駄に大きい風呂とトイレがあるだけだ。居間を中心にそれらの部屋が割り振られており、トイレは私のこだわりで、ウォッシュレットにしている。あとは、小さな庭がある。
ははは、こんな小さな間取りでも家と呼べるのは、奇跡とも言えよう。
しかもだ。この家は、羽田さんとその他の農家さんの家よりも更に山の上にあるのだ。そりゃあ獣も来てしまうだろう。ここなら奪い取れるかもしれないと勘違いして、領土を広げるべく狐や狸、挙句の果てには熊が訪ねてきたことがある。狐や狸は追い払ったが、さすがに熊に関しては近くの猟師さんに救援を求めた。
のらりくらりと歩いていくと、私の家が見えてくる。うむ、こぢんまりとした、私にとってぴったりの家である。
鍵を開け、居間へと入り、テレビを点けた。ははは、さすが田舎だ。テレビ局も限られている。相変わらず、ここの暮らしは面白い。テレビなど娯楽にはなり得ないのだから。
やれやれと愚痴りながら、私は仕事部屋へと移動する。以前の車屋を辞める前に購入した最新のパソコンだ。小説を書くのとインターネットをやる以外に使用しないため、まさに宝の持ち腐れというものだろう。
かたかたと軽快にキーボードを叩いていくが、それも数分で終わった。
煙草に火を点け、天井を見る。
今書いているものは、陳腐なミステリー小説だ。このようなもので読者の心を動かせるなど、私自身微塵も思っていない。最近スランプ気味の私に、編集者が気晴らしに書いてみてはどうだと言ったものだから、その言葉通り気晴らしに書いているだけなのだ。
 あぁ、言い忘れたが、私は一応小説家として生活している。印税も原稿料も安く、三流作家が流されるマイナー雑誌にて、小さな枠で連載をしているのだ。前の車屋を辞めてすぐに、運良くこの雑誌の編集者に拾われたのだが、テレビに出たり、映像化したりとすることもなく、慎ましく生活している。
このような小説家もいるのだ。覚えておくといい。
煙草に火を点けたのはいいものの、結局一度も吸うことなく、私はそれを灰皿に押し当てた。時計を見ると、まだ昼の三時だ。今日は朝十時に起き、何もせずに一時になり、暇つぶしに散歩に出かけたその帰りに、羽田さんに会った。なんとだらしない生活だろう。
しかし、そのような怠け者にも野菜や米をくれるこの町(村)の人々は、心が非常に豊かと言えるだろう。その恩返しではないが、私は彼らの機械関係の世話をしてあげている。農機具の修理から、パソコンの世話まで全てだ。他にも暇さえあれば、お手伝いをさせていただいている。先生という呼び名は、パソコンの教え方が上手いということから、いつの間にかそう呼ばれる様になった。最初はこそばゆかったが、今ではどうでもいい。
つい数時間前に起きたばかりだが、眠くなってきた。少し寝ようと思う。羽田さんの家の晩御飯は、確か六時半頃だ。それまで一眠りしても、誰も私を咎めはしないだろう。
ははは、なんとも寂しいことだろうか。


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