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THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-1



『一本!そこまで!勝者、鈴乃拓斗!』

「わぁ・・・っ!!」

試合会場の真ん中で、審判が手を斜めに上げた。その傾きが、一人の男の子に向けられる。
観客が歓声をあげる。
その中に、最前列で見ていた少女・・八神瑞稀の姿があった。隣には、柊秋乃。
二人は興奮のあまりに、他の観客と同じように手すりから身を乗り出した。

瑞稀たちが見に来ているのは、8月上旬に行われる剣道の全国大会。
午後は準決勝、決勝と行われ、どちらにも出場した顔見知りの応援に来ているのだ。
いや、瑞稀にとって顔見知り程度の関係では無い。つい先日、彼氏となった鈴乃拓斗なのだから。
本当なら剣道の大会など知る由もないのだが、拓斗本人から見に来て欲しいとメールが届いた。
一人で、という拓斗の誘いに反し瑞稀は迷子になるということで秋乃と一緒に観戦することにした。最初は渋っていた拓斗も、秋乃には何か借りがあるらしく強く断ることが出来なかった。


「凄い!拓斗勝った!!」
「まぁ、負けても結構面白かったと思うんだけどね」
「・・・秋乃・・」

表彰式が進んでいく一方。
瑞稀と秋乃は興奮冷めやらぬ空気の中にまだ居た。秋乃もなんだかんだ言いながら拓斗が勝利したのが嬉しいようで、言葉とは裏腹に顔は緩んでいた。
そんな素直じゃない秋乃を見て、瑞稀は顔がニヤけるのが抑えられなくてニマニマしていた。
勿論、瑞稀も嬉しい。
拓斗が優勝したことを誰よりも嬉しいと思うし、誰よりも凄いと思う。
瑞稀は剣道に興味があまり無かった上に絽楽学園に剣道部が無いので知らなかったが拓斗の剣道の腕前は相当なモノらしく、すでに中学入ってからいくつもの大会で優勝をしてきたらしい。剣道をやっている中学生や高校生なら名前は知っていて当然というほど。
勿論、小学校の時には特に目立っていなかったその容姿と成長期に伸びた身長、相手を見据える真っ直ぐな視線・・を、女子が放っておくはずもなく。
この大会でも、あちらこちらに様々な制服を来ている女子の集団が見受けられた。
時折、拓斗を見てキャーキャーとピンク色の悲鳴をあげている。
無意識に、そんな集団を視界に入れてしまう。

今まで連絡を取ろうとしなかった自分が悪い。それは分かっている。分かっているが、どうしても心が疼いて仕方なかった。
自分の知らないところで、拓斗の良さを自分以外の人間が分かってしまっているようで。

「瑞稀!」

女々しいなぁ・・と思っている瑞稀の下、試合会場から拓斗から呼ばれた。
慌てて視線を向けると、どうやら表彰式が終わったらしく優勝トロフィーを脇に抱えて瑞稀を見上げている。
女子からの視線が痛いが、小学校時代にしょっちゅう感じたあの視線よりはマシ。
そう考えた瑞稀はそれらを無視することに決めて、慌てて先程の邪な考えを消し去って拓斗に顔を戻した。

「拓斗、お、お疲れ!・・と、おめでとう!!」
「おめでと。頑張ったじゃん」
「あぁ、ありがとな。応援、来てくれて」
「うわ、自分から来いって言ったくせに」
「・・・柊、お前な」
「まあまあ!!」

和やかな雰囲気から一転。秋乃と拓斗の間に一触即発な空気な流れ始めてしまう。慌てて、瑞稀がそれを流そうとして二人の間に入る。
すると、秋乃のケータイから着メロが聞こえてくる。すぐに鳴りやんだところを見るとメールのようだが、秋乃はすぐにケータイを開いてメールを確認した。
内容を読んでいく秋乃の顔が少し赤くなったのを見て、瑞稀は首を傾げた。
瑞稀の様子に気づいた秋乃は慌ててケータイをポケットに仕舞うと、一つ咳払いをしてまだ若干赤みが残る顔で「用事が出来た」と言った。

「へ?用事?」
「う、うん。だから、ゴメン、先に帰るね。」
「あ、分かった。大丈夫。こっちこそ、無理に誘ってゴメン」
「いや、瑞稀は全く悪くないから。じゃ、またメールする」
「うん!待ってる!」

瑞稀の笑顔に安心したのか顔を緩ませた秋乃は何があったか分かっていない拓斗の方に向き直った。

「ウチ、用事出来たから帰る。瑞稀を“ちゃんと”送って帰れよ!」
「は?あ、あぁ。分かってるよ。来てくれて、ありがとな」
「いーえ、瑞稀の頼みだし。じゃ」
「あぁ、じゃーな」

ちゃんと。というところを強調して告げた言葉に拓斗が頷くのを見て満足げに笑った秋乃は拓斗に別れの言葉を告げると瑞稀に振り返り、「じゃーね!」と言ってそのまま小走りで観客席を後にした。
あんな慌てた様子の秋乃を初めて見た瑞稀は「どうしたのかな」と思ったものの、何も思い当たらない。そんなところで、拓斗から「控え室近くに来れるか」と言われ、少し悩んだが頷いた。

「・・じゃ、待ってるから」
「うん。頑張る」
「あぁ。」

優しい笑顔を向けられて、少し赤くなった瑞稀も、小走りで観客席をあとにした。



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