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THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-5



その日の放課後から瑞稀は昨日よりも忙しくなった。
まずソロパート部分の楽譜を受け取り、リズムや音階を確認するところから始まる。
その後、持っていた楽譜と照らし合わせ、楽譜をつなげていく。
一見すると地味な作業だが、良い演奏にするためにはとても大事なことだった。
細かくチェックをしてペンで直す。楽譜と比べる。また直す。
それを何十回と繰り返す。時々1小節の流れを確認する為にトランペットを吹くがすぐに楽譜を直す。
いつもなら、せっかくオイル塗ったのになと思うところだが今日は楽譜のチェックラストスパート。今日中に終わらせてしまいたい。集中して望むこと数時間。
先輩たちから片付けするよう声をかけられ、ふと気づくともう総下刻時間の18時半。

「うっそ・・全然吹けてない・・」

トランペットをちらっと見ると、少し寂しそうに机の上に置かれていた。
瑞稀が思っている感情が映し出されているだけかもしれないが。
吹きたいという衝動に駆られるが、戸締りをする先輩たちの為に今すぐにでも片付けをして早く音楽室から出なければならない。
衝動を、残った理性で押さえつけ片付けを始めようと手を伸ばした。
トランペットを片付けようにも伸ばした手が動かない。瑞稀は躊躇していた。
すると、音楽室の奥で一人サックスを吹いていた恵梨から声がかかった。

「どしたの?帰ろ!」
「あ、う、うん」

こちらに歩いてくる恵梨は既に片付けを終えていて、手には通学カバンとサックスのケース。
瑞稀は後ろ髪を引かれながらもトランペットをケースにしまった。




帰り道。いつものように自転車を転がしながら恵梨と帰り道を歩く。たわいもない話をしながら。しかし、瑞稀はいつもと違う物足りなさを感じていた。
別に恵梨との会話がつまらないわけではない。むしろ楽しい。それなのに。

「瑞稀ちゃん、今日トランペット吹けてなかったね」
「え?あ、うん。楽譜のチェックしてたら終わっちゃって・・」

自然に乾いた笑いが出る。
自分のチェックするスピードが遅いのが悪い。もっと素早くチェックをしていれば終わらせられたはずだった。だが、どうしても良い演奏、ハーモニーにしようとこだわると何箇所も気になるところが出てくる。それらといちいち格闘しなくてはならなくなるのだ。
どこの締め切り前の作家だ!と自分にツッコミをいれるが、そんな事を考えても早く終わる訳ではないので楽譜に向き直る。しかし、直さないといけない数が増えると同じことを考えては自分に対して深い溜息。
まぁ、なんとか集中したおかげで楽譜のチェックが終わったから明日からは万全な体制でトランペットを吹けるから良かったハズなのだが、どうしても物足りない。

「へぇ・・。やっぱ瑞稀ちゃんって凄いね。トランペットに対して凄く真剣」
「そ、そうかな・・?」
「うん。・・あ、そうだ。ちょっとこっち」
「え、え、恵梨ちゃん!?」

褒められて照れている瑞稀をふと何かを思いついた恵梨が腕を引っ張って、いつもなら別れる路地にある細道に呼ぶ。
瑞稀はよく分からないまま恵梨についていく。少し歩くと細道を抜けたようで、開けた場所に出た。そこは、公園というより・・空き地。

見覚えが無く辺りをキョロキョロしていると恵梨が中に入っていくのを見え、慌てて入口に自転車を止めてついていく瑞稀。
丁度空き地の真ん中まで来ると、恵梨は荷物を置いて近くにある大きめの石に座った。
そして戸惑っている瑞稀をよそ目に、サックスを取り出す。
その次に譜面台をバッグから出し、楽譜とメトロノームを取り出して地面に置いた。
譜面台の位置を確認した恵梨はサックスを持ったまま混乱している瑞稀を見上げた。
まるで、指揮者のひと振りを待っている演奏家のように。

「・・・え」
「ココなら、トランペットが吹けるよ」
「え・・!?」
「ウチの自主練場所なんだ、ココ」
「本当!?」

何も言わなかったはずなのに、自分が感じている物足りなさに気づいた恵梨の優しさに照れくさく、でも嬉しくなった瑞稀は勢い良く荷物を置くとバッグから譜面台と楽譜を取り出した。
恵梨の隣に置いてあるこれもまた大きめの石に座るとケースからいつでも演奏の準備が出来ていたトランペットを取り出した。
その冷たさの中にほんのり温かさが残っている本体を持つと瑞稀は笑みを零した。
やっと、やっと吹ける。待たせちゃって、ゴメンね。
瑞稀は楽譜を一通り確認すると組み立て、立たせた譜面台の上に置き恵梨を見る。
その視線の合図の意味を理解した恵梨がメトロノームの針を動かしてリズムを取る。
それぞれの楽器が入るタイミングを測り・・瑞稀と恵梨は楽器の音を出した。

恵梨は流れる水をイメージさせる音。瑞稀は自由に飛ぶ鳥をイメージさせる音。
その二人が、自分たちの思う曲のイメージを合わせ元気な曲調を奏でる。
二人の短い自主練タイムが始まった・・・。



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