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悪戯〜いたずら〜
【コメディ 官能小説】

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ボーイミーツガール・3-1

――ボーイミーツガール・3


 よし、まだ10分前だな。ポールの先に取り付けられた時計を見上げながらボクは内心に呟いて、公園の広場のベンチにフワリと腰を降ろした。学生カバンの中から文庫本を取り出して、これ見よがしに広げる。
 向こうの方でハトの群れにエサをやっているお爺さんや、少し離れたベンチでタバコをふかしている営業マンのような男の人、並んで座っておしゃべりに興じているオバさんたち、何にも知らない周りの人からすれば、ボクの姿は、誰かを待っている間の暇つぶしに文庫本を広げている『聖カペラ女学院』の生徒、にしか見えなかったに違いない。
 とまぁ、ボクが少し自意識過剰な感慨に耽ってしまうのもムリはないんだよね。アレから何回もコノ格好で色んなところへ出かけてみたんだけど、道行く人たちに不審な目で見られたことなんて1回もないし、この前なんか、繁華街をひとりで歩いているところをナンパされちゃったりもしたんだから、ボクの自信は深まるばかりなのであった……

 ……とか何とかツマラナイことを考えているうちに、広場の入口の方からこちらへ向かって歩いてくる木更津エリーちゃんの姿が見えた。胸のドキドキが一気に高まる。表情が綻んでしまうのを抑えようとしても抑え切れず、ボクは、満面の笑みを浮かべて、エリーちゃんに大きく手を振った。

「速水さん、待った?」

 広場に入って来たエリーちゃんが、ボクの座っているベンチまで駆け寄って来る。名字だけでフルネームを呼ばないのは当然のこと。 “せいじ” なんていう名前のオンナノコなんていないからね。あと、ボクが首を振ったり頷いたり、身振りでしか反応しないのは、出来るだけ声を出さないようにしているからだ。コレも “秘密維持のためのお約束” ってこと。

「じゃ、行きましょうか?」

 エリーちゃんが、ボクに片目を瞑って合図を送って来る。ボクは、文庫本をカバンの中へ素早くしまって立ち上がると、顔の前で右手の親指を立てて “準備オッケー” の意思表示をエリーちゃんに返した。連れ立って、にこやかに談笑しているフリをしながら、公園の広場を後にする。

「この間は、すごく楽しかったわね?」
「少し、ハメを外し過ぎてしまったかしら?」
「今夜は、もっと面白いイベントを考えているのよ」

 ボクが声を上げないようにしているので、エリーちゃんが一方的にした話に頷いて返すしかないんだけど、後ろをついて来てずっと話を聴いているような人でもない限り、ボクたちの様子に違和感を持つことはないだろう。少なくとも外見については完璧に『聖女』の生徒の二人連れ以外の何モノでもないんだから。

「ね? 速水さん」

 エリーちゃんが、いきなり肩を寄せて腕を絡ませてきた。ボクが、あまりのことにビックリしてエリーちゃんの方へ顔を向けると、悪戯っぽい目つきでこちらを見上げたエリーちゃんの、麗しすぎるビューティー・フェイスが迫っている。大げさではなく瞳の奥に吸い込まれそうになり、心臓の鼓動が一気に速くなった。
 最初にエリーちゃんと出会ったときと同じ、桃の実と薔薇の花がミックスされたような甘く爽やかな匂いがフワッと香る。ボクの視界には、一瞬のうちに薄っすらとピンクの靄がかかって、目の前がぼうっと霞んでしまった。

 エ、エリーちゃんの顔が、こんな近くに……。ボクの意識は、どこか別の世界に飛ばされたかのように、しばらくの間、辺りを漂い彷徨った。

 気がついたときには、最寄り駅の構内をエリーちゃんに引き摺られるようにして歩いていて、改札を抜けると『聖女』の生徒が6人、ゾロゾロとコンクリートの四角い柱の陰から現れて、エリーちゃんとボクに合流してきた。


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