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溺れる爪痕
【ファンタジー 官能小説】

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幻覚-1

 はぁ、はぁ、と浅い呼吸で身体の火照りを冷まそうとするシウを一瞥し、アズールはソファーに括り付けた拘束を解いた。

そうすればすかさず閉ざした両腿をもじもじと切なげに擦りあわせ、潤みきった翡翠色の瞳はじっとアズールを見上げてくる。

捨て猫がすがるような愛らしいその表情に堪らずアズールは吹き出した。

「なんだよ・・・・?」

「いや、可愛いなと思って」

聞くや否や怪訝にひそめられた幼さを残す顔にまた笑みが溢れてくる。

「・・・・あんた、馬鹿だろ」

「ほらまた。名前で呼ぶこと」

「はいはい。アズールサマ?」

膝を抱えソファーの上で丸くなったシウは悪態付く口とは逆に身体を小さく縮込めて座り直す。

その華奢な肩が震えている。

「まだ熱いかい?」

「・・・少し、だけど」

「だけど?」

「だけどそれより・・・」

なんだか怖い。そう口を突こうとした言葉を寸でのところで飲み込んだ。

アズールは首を傾げて腕に埋められた頭を撫でる。

「最初から虐めすぎたかな。ごめんね」

「・・・・ハッ!やっぱりあんた馬鹿だ。拷問するとか言う奴が普通謝るかよ?」

「君は奴隷じゃないからね、敬意を持って接するつもりだよ。でも、ペットだってことも忘れないでほしいな」

「・・・・は?」

「俺は君のご主人様ではないけれど、主従関係は存在するからね」

黒いローブがシウの全身に影を落とす。

顔を上げれば目と鼻の先に暗い色の瞳が、自分を囲うように映し出していた。

形の良い唇がゆっくりと弧を描き動く。

「俺と君の約束は二つだけだ。嘘は吐かない。名前で呼ぶこと。破った数だけお仕置きするから」


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