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死角空間
【SF その他小説】

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弧独を癒すもの-2

それはほんの偶然だった。
白い杖をついた若い女性が歩いて来た。
薄いサングラスをしているが顔立ちも綺麗で身なりも立派だった。
俺はそのまますれ違って通り過ぎようとしたが、ふと立ち止まった。
彼女の背後から怪しげな連中が後をつけてきているのだ。
きっと盲目の娘に目をつけて良からぬことを企んでいるに違いない。
そんな気がして俺もその娘の後をつけることにした。
少し人通りがまばらになって来た頃から5人の若い男達はその娘に近づいて行った。
そして娘を囲むようにして人通りのない方へと連れ去ろうとしたのだ。
「誰ですか? 私をどうする積もりです」
「いいから黙ってついて来い。大人しくしてれば痛い思いはしなくてすむぞ」
若い男達はいかにも遊び人といったチンピラどもだ。
目が見えないことを良いことに、集団でレイプする積りなのだろう。
男達が娘を草むらに押し倒したとき、俺は大声で怒鳴った。
「やめろ! けだものども。すぐここを立ち去れ」
「誰だ?」「どこにいる」「出て来い」
若い男達は5人ともしきりに周囲を見渡したが、もとより俺の姿が見える訳がない。
俺は男達に一人ずつ体当たりをした。すると俺の力の数倍の威力が相手に伝わった。
死角空間の壁の弾力が男達を3・4mも弾き飛ばしたのだ。
男たちが背中から地面に落ちて面食らっているうちに俺は娘を空間に入れた。
「畜生いったい誰だ?」「あっ、あの女がいないぞ」「消えたぞ」
男達の騒ぐ声が飛び交う中、俺は娘の手を引いて言った。
「さあ、俺と一緒にこっちへ来な。助けてやるから」
娘は素直に俺について来た。
俺は落ちていた白い杖を手に持たせてその反対端を掴んで引っ張って行った。
「急がなくてもいい。奴らには見つからないから」
「はい、ありがとうございます」
娘は言われた通りに落ち着いて歩いて来た。
ある程度歩くと空間から出してあげて人通りの多い所に導いた。
そして娘に今いる場所を教えた。
「あの、待って下さい。あなたのお名前を教えてください」
娘をその場に置いて立ち去ろうとすると俺は呼び止められた。
通行人が独り言を言う奇妙な娘を振り返るので、俺は再び娘を空間に入れた。
「あっ、また何かの中に入りましたね。これは何?
風が止まって、周りの音が少し小さくなるからわかるんです。
もしかして私の姿もあなたの姿も他の人には見えないのでは?」
俺は娘の勘の鋭さに驚いた。目が見えない分、他の感覚が発達するらしい。
「その通りだよ。俺は一種のモンスターだ。化け物だよ。
だから名前なんかは知らない方が良い」
「姿が見えない妖精さんなのですね。」
「いや……そんな可愛らしいものじゃ……」
「私の名前はニーナです。新しいという字と野菜の菜という字でニーナと言います」
「素敵な名前じゃないか。
どうやらさっきの連中は君を狙って後をつけて来たみたいだな。」
「はい、障害者センターを出たときから後をつけられていたようです」
「もう奴らの姿は見えないから大丈夫だと思う。気をつけて帰ると良い」
俺はそこまで言うと一方的に別れを告げ、ニーナを行かせた。
だが万一のことがあるといけないので気づかれないように後をつけた。
久しぶりに生きた人間と会話を交わしたせいか、俺は何故かニーナのことが気にかかっていた。
俺は移動するとき殆ど足音をたてない。
足元にも空間の薄い膜があり路面に直接靴底が当たるのを防いでいるからだ。
だから決してニーナには気づかれていない筈だった。
だが彼女のアパートの入り口に着いたとき、ニーナは俺の方に振り返って言った。
「どうぞ中に入ってください。コーヒーでも飲んで行ってください」
俺は肩をすくめて彼女の後に従った。  


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