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死角空間
【SF その他小説】

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別れ-1

それから俺とニーナの奇妙な生活が始まった。
そうなんだ。コーヒー一杯だけ飲んで立ち去る積りが引き止められるままそのまま居座ってしまったのだ。
ニーナには俺の事情を全て話した。セックスが危険なことも。
だから彼女とキスしたり抱き合うことはあっても最後の一線は守っていた。
ニーナは障害者センターに行って点字タイプを打つ仕事をしている。
俺は日中ときどき職場を訪問するが、必ず彼女に気づかれてしまう。
俺はホテル住まいをやめて、ニーナの安アパートで過ごすようになった。
ある朝見た夢からパラサイトの貴重な情報を得ることができた。
セックスによって女性が宿主になることはないという事実を知ったのだ。
パラサイトはセックスに伴う射精の際、同時に自分のごく小さな分身も放出する。
その分身は精子と混じって女性の卵子に接触するのだ。
その卵子が受精したときにのみ分身は受精卵に潜り込むことができる。
それ以外では女性の体内の強い免疫作用により分身は消滅するのだ。
それでは生まれてくる子が女の子の場合はどうなるのだろう。
パラサイトは男の体にしか寄生できないので、その場合でも死滅する。
生まれてくるのが男の子の場合にだけパラサイトは寄生に成功するのだ。
それがわかったとき俺はニーナにそのことを伝えた。
以来、ニーナは妊娠する恐れのない時期を選んで俺とセックスするようになった。
だが未だに俺はニーナ以外には誰にも知られない存在なのだ。
この生活もいつまで続くかわからない。だが俺にとってニーナは唯一の理解者だった。
俺にとってはかけがえのない存在だった。
けれども俺にだって心の迷いがある。
通りを歩いていると、写真集発売キャンペーンというのをやっていた。
グラビア・アイドルの澄川きららが写真集を買ってくれた者に握手してサインをするのだそうだ。
俺はその様子を近くで見ていてむらむらと欲情した。
サイン&握手会が終わると澄川きららはロケバスに乗り込んだ。
そう、彼女は乗り込んだ積りだった。
だがその瞬間俺は澄川きららを空間に取り込んだのだ。
「ここはどこ? いったい何が起こったの」
俺は黙って歩き出した。
俺が歩き出すと空間も移動し、きららも壁に押されるように歩かされる。
かすかな曇った膜を通して俺は目を凝らしながら、ホテルの空き部屋まで澄川きららを誘導した。
「ねえ、あなた何故黙っているの? この曇った場所はなに。
あなたはどうしてここにいるの」
俺は悲しそうに一芝居をうった。
「これは蜘蛛の巣のようなものだよ。俺もだいぶ前に突然捕まったんだ。
あんたはついさっき捕まった。宇宙人が人間を実験に使うものらしいんだ」
「なんの実験?」
「わからない。先日もあんたのような若い女がここに入って来た。
それで何日も一緒に過ごしていたんだが、その女だけが解放されて俺はここに残された。
多分一生ここから出られないのだろう」
「それじゃあ、私もここから出してもらえるかもしれないのね。
それはいつごろかしら」
「わからない。俺が決めるわけじゃないから」
「ねえ、何をしたらその女の人は解放されたの。私忙しいから早くここを出たいの。
あなたには悪いけれど、いつまでもこんな所にいる訳にはいかないのよ」
「関係あるかどうかわからないけれど、その女は俺と寝た後すぐに解放されたんだ」
「そうなの? じゃあ私にも同じことをして。
それでここから出してもらえるなら私構わないよ。
あなたには悪いけれどキャンペーンの途中だから時間を無駄にできないのよ」
俺は待ってましたとばかり、澄川きららの豊満な肉体にむしゃぶりついた。
だが、挿入するときにはコンドームを使った。
澄川きららとは何度も交わった。そして時計を見たとき、はっとした。
俺は澄川きららをホテルの空き部屋に残して急いで障害者センターに走った。
だがニーナはそこを退社した後だった。
俺は彼女の帰り道を辿って走った。だが、アパートにも着いていなかった。
もしやと思い例の草むらに行くと、ニーナはそこにいた。
見えない目を見開いて口の端から血を流してニーナは息絶えていた。

俺は奴らを捜した。何日も捜した。狂ったように探し回った。
そしてついに見つけた。クラブで例の5人の若者が酒を飲んで気勢をあげていた。
会話の内容から奴らがニーナをレイプして絞殺したことがわかった。
そして俺は……。

 


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