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死角空間
【SF その他小説】

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弧独を癒すもの-1


たとえば最初の頃は女風呂を毎日のように覗きに行ったものだ。
婆さんたちではなく、若い女が沢山集まる大きな浴場に行き、十分目の保養をする。
だが不思議なもので最初は刺激的な経験だったが、だんだん慣れてくると若い女の裸を見ても何にも感じなくなった。
服を着ている女と全く同じ感覚で見るようになってしまったのだ。
それでだんだん女風呂を覗きに行くことはなくなった。
映画などはいつも無料で入ることができる。
どんな有料の催し物でも俺の場合はフリーパスだ。
音楽会・博覧会・美術展・スポーツ観戦・コンサートなんでも来いだ。
それに楽屋にも自由に出入りできるから舞台裏の情報も色々入ってくる。
だが、俺は友人も知人もできない。
俺はいつも身奇麗にしているが、その様子を見せる相手もいない。
ヒゲは毎日剃り、髪は自分でカットする。
風呂にも入り新品の服を着て、香水などもつけてみる。
だがそんな俺を誰にも見せることはない。
見せたとしても相手はパニックに陥るだけだし、この状況を説明するのも面倒臭い。
友人はできないと言ったが、もちろん恋人だってできる訳がない。
それどころか一夜限りのセックスフレンドすらも難しい。
いやそういう相手ならなんとか都合できるかもしれない。
相手をこの空間に入れてなんとかセックスする方向に持って行くことも不可能ではない。
だが、その結果相手にもパラサイトを植え付けることになるのだ。
だから俺がセックスを望むことは、エイズ患者が自棄になって相手構わずセックスしまくるのと同じことなのだ。
俺はそんなことになって俺自身の心が壊れて行くことが怖いのだ。

弧独と言っても一方通行的な知人はいる。
何人かの人間が集まっているところには仲間の会話があり、その内容次第では十分俺にも楽しめるトークがある。
だから傍まで近寄ってじっと聞いて会話の中に仲間入りした積りでいることはできる。
だが、いくら面白いことを聞いたからと言って、吹き出したり相槌を打ったりはできないのだ。
2・3人の会話ならもちろんだが、十数人の大勢の集まりの中でもメンバー以外の者の声が聞こえると意外と敏感に反応するものだ。
だからそういう一方的な知人というのも長続きした例がない。

 


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