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翼の記憶
【ファンタジー 恋愛小説】

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人の世の中-1

この世界のことを知るうえで、王宮からものを見ているようではまだまだだと葵は痛感していた。




(直接目で見て、私自身が感じなくては・・・)





それからというもの葵はたびたび王宮を離れ、民と同じような服装で各地をまわった。





民たちはとても志高く、誰もが努力家で素晴らしく輝いていた。生活の苦しい者たちは互いに助け合い、力強く生きている。





(いつか・・・王宮の孤児院も民たちの手に任せることが出来るかしら・・・)





葵は変わりゆく時代の流れに、人界の民を誇りに思いながら各地を巡った。





それは・・・とある小さな町での出来事だった。






その町は"着物"と呼ばれる美しい織物を服装として用いていることで有名で、男性はカタナと呼ばれる刃物を腰にさげている。






夕暮れになり、王宮に戻ろうと足早に歩いていると・・・。





「火事だーっ!!!」






遠くから誰かが叫んだ。
振り向くといくつもの家から火があがり、たちまち周りの民家に燃え移っていく。






集まった人々は手に桶をもち、川や井戸から水を運び駆けまわっていた。






葵は走り寄り、目を凝らした。



(・・・家の中に人は・・・・・・)






(大丈夫、誰もいない・・・)






燃えさかる火の先を見ると、たくさんの民家が連なっており・・・火事も衰える気配がない。






若者たちが各家をまわり、子供やお年寄りを連れ出して避難しているのが見えた。






そして葵は目を疑った。


お年寄りを誘導している青年のさらに奥。
何者かが別の家に火をつけているのを目にしたからだ。






(まさか・・・これは人為的なもの・・・?)






その者がつけた火は勢いを増して、火の手はあっというまに広がってしまった。






人々の消化活動など焼石に水も同然・・・。この劫火の中では意味をなさなかった。あたりは逃げ惑う人で混乱しており、親とはぐれた子供たちは声をあげて泣いている。






(むやみやたらに手を出してはいけない・・・だけど・・・死者を出すわけにはいかない!!)






頭上に手をかざし、その手に光を集めようとしたその時・・・。






腕をつかまれ、






「何をしている!!川に向かって走れっ!!」






と、一人の青年が立ちはだかった。









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