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私の夏
【青春 恋愛小説】

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ビックリ自己紹介-2

 そして、あっという間に日が暮れた。

 あたしが甲板にでると、ナツと呼ばれていたサングラス男が、手すりにもたれて煙草をすっていた。

 男はあたしに気付くと、煙草と反対の手に持ったサクマ式ドロップの缶に煙草を押しこんで火を消した。

 ふーん、結構マナーのいいこと。こんな大人なところは少し尊敬しちゃうかもね。

「来てくれてありがとう、やっぱりイヤやった?」

「い、いいえ、今はそんなにイヤじゃないです」

 本当はみんなに散々言われたから、仕方なしに来たんやけど…

「え〜っと、ナッちゃんでいいのかな?そう言えば正式に自己紹介してなかったっけ」

「そうですね、自己紹介してないですね」

「今さらやけど名前教えてくれへん?みんな『ナッちゃん』て呼んでたから夏子ちゃんかな」

「あたしは夏生まれだから『夏』の字を使ってますけど夏子じゃないですよ。夏の音と書いて『ナツネ』って読むんです。あたしこの名前凄く気に言ってるんですよ♪」

「え―――――――!夏の音でナツネ――――――!」

 男はあたしの名前を聞いた途端に驚愕の声を上げた。『夏音』ってそこまでビックリされる名前かな?

「どうしたんですか?あたしの名前変ですか?」

「い、いや、違うんや、ちょっと、イヤ、ムチャクチャビックリしてしもた。ナッちゃんもオレの名前聞いたら同じになるわ…」

 男は何を言ってるかわからない程うろたえていた。

「みなさんは『ナツ』って呼んでましたよね。ナツさんも夏生まれですか?ナツオさんかな」

「そうや、夏生まれの『ナツオ』は正解やけど、その漢字がな、ホンマ聞いたらビックリするでぇ」

「『オ』でビックリする漢字?普通に考えれば雄、夫、生ですよね。まさか夏の王子様で『王』ですか?」

 あたしはナツさんの愛読書の『星の王子様』から連想した。

「王子様とちゃう!」

 なんだ、残念。

「王子様もビックリするけど、こっちの方がもっとビックリなんや!」

「王子様以上なんですね」

「エエか、聞いてビックリしてや!オレも夏の音って書いて『ナツオ』って読むんや!」

「え―――――――!夏の音でナツオ――――――!」

 あたしもさっきのナツさんと同じくらい驚愕の声をあげてしまった。こんなことってあるの?

 あたし達はお互いに見てはイケないモノを見る様な目で、しばらくお互いを見つめ合った。

 あたしの親は夏生まれの元気良さを表わすために付けたって言ってたけど、あたしの親と同じことを考えた人も居たのね。ほら、夏の音ってなんだか元気いっぱいってイメージじゃない!そう思うと珍しくないかもね。

 ふ〜ん、ナツさんも同じ夏生まれの『夏音』なのよね。んっ?と言うことは若しかして…

 あたしはの脳裏にさらなる可能性のことが浮かんだのだ。

「まさかと思って聞くけど、夏生まれのナッちゃんの誕生日って若しかしてもう直ぐかな?」

 うっ、ナツさんも同じことを考えてたみたい…

「じ、実はこの旅行中に19歳になるんですよ」

「は、はは、ははは、ナッちゃん旅行中って?は、ははは」

「ふ、ふふ、ふふふ、若しかしてナツさんも?ふ、ふふふ」

「明後日の8月1日っ!」

「あ―――!一緒だ―!」

 あたし達はまたもや見てはイケないモノを見る目で、お互いを見つめ合った。


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