投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

犬猿の仲
【ファンタジー 官能小説】

犬猿の仲の最初へ 犬猿の仲 1 犬猿の仲 3 犬猿の仲の最後へ

降臨-2

「そっちも食いたい」

「ざけんな。璃子の弁当に手ぇ出したら速攻で山に追い返してやっぞ」

 ひとつの机を挟んでじゃれ合う俺達……こんな日常が続くもんだと思っていた。

 思っていたんだが……。

 その日は朝から落ち着かなかった。
 なんか寒気がするって言うか、殺気がするって言うか……とにかく、なんだか狙われているような感覚だ。

「落ち着きねぇ奴だな」

 今村が怪訝な顔をして後ろの席から俺の頭を小突く。

「いや、なんか感じねえか?」

 この感じは本能的なもの……もしかしたら今村にも分かるかも、と聞いてみた。

「イヤ?別に」

 挙動不審な動きをする俺の尻尾を、鬱陶しそうに手で払いながら今村は答える。
 しかし、俺の心のざわつきは治まらず徐々に大きくなっていった。

 その時、ガラガラとドアを開けて担任が入って来る。

「うおーい、席につけー」

 ざわつく教室……担任の後ろには見た事のない女生徒がついて入ってきていた。

「ひっ」

 その女生徒を見た瞬間、俺の背中に悪寒が走って思わず息を飲む。
 綺麗なストレートの黒髪は肩甲骨までの長さで、ひとつにきゅっと結んでいる。
 切れ長の目はクールだがどこか暖かみも感じる……だろうな、人によっては。
 それよりも何よりも、彼女の頭に生えている白い獣耳!
 お尻辺りで揺れているふさふさの尻尾!

(嘘だろ……嘘だと言ってくれっ!)

 俺は吐きそうになり慌てて片手で口を押さえた。
 冷や汗が全身から吹き出して気持ち悪い。

(なんで犬神が人間に化けてんだよっ)

 そう、彼女は犬神様……神様の中でもトップクラスだ。
 そして俺はしがない猿の妖怪……もしバレたら滅っせられるっ!って言うかバレねえワケねえしっ!相手、神様だし!

(逃げるか?!逃げるなら今か?!)

 俺は少しずつ椅子を引いて逃げる体制をとった。
 その時、彼女が視線をこちらに向けた。

(いっ?!)

 彼女の視線に射ぬかれた瞬間、金縛りにあったように動けなくなる……つうか、金縛りだよ……ちくしょう。
 目を合わせたまま動けない俺をジーッっとみた彼女は、ふっと視線を反らした。
 同時に金縛りが解け、がっくりと机に突っ伏す俺。

「新しい仲間を紹介するぞー。親御さんの都合で急遽この学校に転校してきた……」

「乾 薫子(イヌイ カオルコ)です。よろしくお願いします」

 犬神様は深々と頭をさげて挨拶する。
 この高校は工業高校で女子の数が極端に少ない。
 だから女子が増えるのは大歓迎なわけで、クラスメートの男共は口笛を吹いたりして囃し立てた。


犬猿の仲の最初へ 犬猿の仲 1 犬猿の仲 3 犬猿の仲の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前