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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編-9

「裏の稼業も大概にせんと、隠しきれんぞ。どうする?」
「ち、ちょっと待ってくれよ。佐野さん」

 廃品回収は表の稼業。
 裏では公営ギャンブルでネットを使ったノミ行為を働き、収益を上げているという事は、佐野の仲間内では周知の事実だ。
 しかし、組織犯罪対策係は長門を見逃してきた。
 バカラやルーレット等、暴力団のフロント企業が主催する違法賭博は、一晩で数千万円もの水揚げがあり、それらの大半は暴力団が麻薬や武器を購入する資金として流用される為、それは、社会通念として由々しき問題であり、警察としては看過出来ない。
 対して長門の収益は、月に百万円程度と大した額でなく、その上、地域の裏事情にかなり詳しいという特異性が、佐野逹にとって“逮捕以上の価値”をもたらしていた。

「お茶を持って来てくれ」
「は、はい」

 長門は事務員にそう頼み、佐野を連れて奥にある部屋へと入って行った。
 十平米程の窓の無い部屋には、ソファーセットと机がひとつだけで、机にはニ台のパソコンとサーバー一基が設置してあった。
 壁に飾られた調度品は部屋の豪華さに一役買っているが、何より、事務所とは対照的に煌々と灯る明かりが、奇妙なコントラストを表している。

「失礼します……」

 コーヒーが運ばれてきた。
 佐野は、カップを口許にもっていって一口啜った。

「なかなか美味いな……」

 コーヒー通でなくても、香りと味の良さが判る。
 しばらくぶりに来たが、調度品のレベルが上がった事等も考慮すると、長門の裏稼業は順調なのだと感じた。

(だったら、こっちの思惑通りに話を持っていき易い)

 佐野はカップをソーサーに戻した。

「お前の工場に、アルミ缶を持ち込む浮浪者は何人居る?」

 唐突な質問だった。

「アルミ缶……さあて、十五、六人てところですかねえ。何か、事件ですかい?」
「余計な口は利かんでいい」

 たしなめられて、長門はふてくされた様に顔を他所に向けた。

「〇〇地区辺りをテリトリーにしてるのは?」

 アルミ缶等を集め、廃品回収業者に売って金を得る浮浪者にもルールがあり、集める地域が重なっていると揉め事となる為、各々がテリトリーを持っている。

「……判からないですねえ。こっちも、いちいち名前なんぞ聞いてねえんで」
「顔は判るんだな?」
「ええ。うちの従業員が、〇〇地区で何度か出会してるはずですから」
「その従業員は何処に居る?」
「今は営業廻りです。六時頃には戻ってきますよ」

 佐野は考えた。そいつに面通しをやらせれば、特定は可能だが、果たして何処に。

「お前逹の管轄で、浮浪者逹の棲家がある場所は判るか?」
「そいつも、従業員なら判ると思いやす」
「そうか……」

 どうやら、従業員が戻らねば埒が開かない。これ以上の追求しても無駄のようだ。

(この件は岡田逹に任せて、俺は別の方を当たるとするか)

 従業員の件を長門に頼んだ佐野は、工場の駐車場に停めた車に乗り込み、携帯を手にした。


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