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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編-10

「お疲れ様です」

 電話に出たのは、岡田かほりだった。

「夕方、鶴岡君を連れて〇〇工業に行ってくれ」

 佐野は、長門に依頼した内容と行うべき事柄を岡田に伝えた。その間、岡田は一切メモを録らずに聞き入っている。

「……以上だ」
「質問があります」

 岡田が訊いた。

「鶴岡を同行させた場合、相手が警戒心を解かないと推測されますが?」
「バレたって構わん。浮浪者逹は組織との関わりを畏れている。密告は無いと考えていい」
「解りました」
「鶴岡君に教えてやれ。這いつくばってやる捜査ってやつを」
「分かってます」

 答えた岡田は、企みを持った眼をして笑った。
 連絡を終えた佐野は、工場の駐車場から車道へと車を走らせる。
 すると、それを覗き見る様に、工場から少し離れた場所に、カローラの営業車が停まっていた。





「どういう事だ!そりゃあッ」

 夕方を前に、鶴岡直人は本部でゴネていた。

「浮浪者に聞き込みに行くから、着替えなさいって言ってるのよ!」

 岡田が指示する捜査方法に納得がいかない鶴岡は、異議を唱える。

「聞き込みはいいとして、何で背広のままじゃ駄目なんだ!?
 変な格好してると、相手にナメられるぞッ」
「そんな事言ってるから、あんたは坊やなんだよ!」

 しかし、岡田はそんな考え方を真っ向から否定する。

「相手を威して情報を手に入れるなんて、素人のやり方よ。
 身構えた心を開かせなきゃ、肝心な部分は喋ってくれる訳ないでしょうが」
「そんな奴等は引っ張って来て、ちょっと尋問すりゃ直ぐに吐くさ!」

 あまりの横暴な答えに、岡田は情けなさを感じた。

「そんな事をすれば、警察は不要な敵を作ってしまうって事が解らないのッ。
 浮浪者ってのは社会に恨みを持っているわ。特に、私達には敵愾心をね。そんな人間が威したらまともな事を喋ると思う?
 あんた、島崎って班長の下で何を学んできたのッ」

 尊敬して止まない上司の名を聞かされ、鶴岡は冷静さを欠いている自分に気付いた。

「わ、解ったよ!着替えりゃいいんだろ」

 しかし、岡田に絆されたと思わせるのは癪に障るから、素直になれない。

「着替える服はどうするんだ?」
「今から、あんたの家に行くわよ」
「お、俺の家って?」

 さらに、意外な展開が追い討ちを掛ける。

「スウェットの上下とか持ってる?」
「ああ……冬用なら」
「じゃあ、それに着替えて」
「スウェット着て捜査かよ……」

 これからの事を想像するだけで気分が滅入るが、捜査の為だと気持ちを切り替えた。

「あんたはどうするんだ?」
「私は、更衣室のロッカーに、何着か私服を入れてあるわ」
「準備がいいんだな」
「あんたも今後は用意しておきなさい」

 それから十分後、二人を乗せた県警の特殊車両は署を後にした。



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