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【SM 官能小説】

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鏡 〜出逢い〜-1

振り返ってみれば、俺は生まれた時から繋がれたままだ。
“愛”と言う名のリードに曳かれた犬の散歩のような人生だった。
決められたコースを外れる事無く、主人の半歩後ろにピタリと寄り添い、尻尾をパタパタと振りながら主人に撫でられる為に愛想をふりまく。
投げられたボールを喜々として追いかけ、与えられるご褒美を涎を垂らしながら待つ。
リードの先を握るのは…親父だった。
独りよがりで利己的な“愛”と言う名のリード。


高校生の俺は、とある施設を訪ねていた。
ここは痴呆性老人を収容する施設で、病院が隣接している。
地元出身の代議士による鳴り物入りの計画によって建設された、利権が絡み合った施設だ。
当然『名士会』のメンバーたちにより建てられ、巨額の公的資金が投入された。親父は、この施設を足掛かりに『名士会』への食い込みを狙っていたようで、代議士への政治献金を始め、方々への根回しを怠らなかったが残念ながらまたしても二番手を抜け出す事は出来なかった。
俺の通う高校では、“ボランティア”が単元の一つとして取り入れられ、二年生の一年間ボランティア活動が義務付けられていたのだった。
ボランティアの行き先は各人の自由で決める事が出来たが、親父の一言で、俺はこの施設に来る事になったのだった。
その頃の俺は、親父に対する反発心や抵抗心を覚えながらも、今この男に逆らう事は得策では無いという打算も働かせるようになっていて、表向きは従順でしっかりものの息子という役回りを演じていた。
高校からの依頼書を携え施設長と病院の医院長に挨拶を済ませた俺は、案内された場所に向かう為一人施設の廊下を歩いてゆく。
個室や大部屋が並ぶ廊下には、何人かの老人が所在無げに歩き回ったり、座り込んだりしている。扉が開け放された広場のような部屋では、グループでテーブルを囲み憑かれたように折り紙を折る老人の姿があった。
「英吉!英吉じゃないか!」
突然の大声に俺は驚き立ち止まった。
「英吉…生きておったか…生きておったか…」
一人の老人が俺の肩を掴み、揺さぶりながらそう言った。
「…え?…」
いきなりの出来事に為す術もなく立ちすくむ俺に老人は続ける。
「大作が逝っちまったんだぁー。俺の目の前で逝っちまったんだぁー。」
オイオイと泣きながら訴える。
「あいつは俺の少し先を歩いていたんだがよぉー、踏んじまったのよぉー、地雷を踏んじまったのよぉー!」
「俺の目の前にあいつの腕が飛んできてよぉー、バラバラになっちまったよぉー!」
「大作がバラバラになっちまったよぉー!」
廊下中に響きわたるような声で号泣し始めた。
「あ、あの…」
何と答えたらよいものかわからない俺は狼狽えるばかりだった。
「戸部のおじいちゃん。」
その場にはふさわしくない程、若々しく可愛らしい声がした。
「おじいちゃん、お部屋に行きましょうね。」
声の主はそう言うと、オイオイと泣き続ける老人を促すように肩に手をかけるといくつか並んだドアの一つに老人と共に消えていった。
俺はしばらくその場に佇んでいたが、ハッと我に返り廊下を先へと進んで行った。
事務所に顔を出し、職員にこれから世話になりますと挨拶をする。
俺は一ヶ月に二度程ここを訪れて、雑用を手伝う事になるのだった。
事務所を出た俺に、
「さっきはごめんなさいね。」
一人の女の子が声をかけてきた。
「戸部のおじいちゃん昔戦争に行ってたんだけど、あなた位の年齢の男の子を見るとその頃の記憶が甦ってくるみたいなの。」
「驚いたでしょ?ごめんなさい。」
そう言って恥ずかしそうに笑う女の子は、俺と同じ位の年齢だろう。
枯れた花の中で一輪だけ生き生きと咲くヒナゲシの花のようだな…俺はそう思った。
「いえ、少し驚いたけど平気ですよ。」
そう答える俺に、
「ありがとう。」
ひとことそう言うと廊下の向こうに消えていった。
『春沢菜緒』
彼女の胸に付けられた名札には、そう書かれていた。


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