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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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第4章 展開-1

1、再生

 学園生活が2ヶ月も過ぎた頃、朝早く奥多摩警察の刑事だと名乗る男性の訪問を受けました。それだけでも何事かと身構えるものですが、応対に出たサキと駆けつけた小枝子と智代は、何かを見せられるとその場に座り込む異様さでした。
 刑事は、彼女たちに遅れて出てきた私に、どこかの崖下で煙を上げている車が映されているカラーコピーを見せました。赤のBMWでした。ナンバーを確認して母の車だと分かりました。
 もうその頃は、何があっても驚かないほどあらゆる事を考え抜いておりましたから、一つの解決を得てホッしている部分があったのです。<死体は二人>と聞いて<ああ、やはり……>と、全身から力が抜けていきましたが、続く刑事の言葉に、私の虚勢は一挙に崩れたのです。
<ミニョン……>
 部屋が一瞬真っ暗になって回転し、若い刑事の腕の中へ崩折れたようでした。
<二人の死体>は、母と男性を意味していたのです。
 
 奥多摩での死体確認は、母と、私の知らない男性でした。
 母と共に亡くなった男性は、免許証から篠原恭孝、私の実父だと言われました。事件性はなく、ハンドル操作の誤りによる事故死と断定されました。
 事情聴取、事故の模様、捜査経過などをサキと共に聞きながら、おじさまから死んだと聞かされていた父のことは殆ど感慨の持ちようもなく、私はミニョンのことしか考えられませんでした。
 サキたちは、母とミニョンの失踪以来あれほど動き回りながら、この母と父の死は想像外だったようで、嘆き悲しむ様子が私には不思議でなりませんでした。
 私はおじさまに電話をし、父と母の奥多摩での事故死、そして、その車にミニョンが乗っていなかったことは、もう既にミニョンは亡くなっていたということなのか、それとも他の事情があるのかを問いただしました。おじさまは、電話の向こうで絶句しているようでしたが、父は死んだ、という嘘は認めまたものの、ミニョンのその後は解らない。小田原の友人が紹介してくれた湯河原の外科医、そしてその医院に入院していたことは確かだが、父はあの日以後何の連絡もなかったため、自分も混乱するばかりだ。とにかく、湯河原の医院以降が不明なわけだから、そこを調べよう……ということでした。

 私は、その湯河原の外科医院を訪ねました。おそらく、これは私の推測ですが、父がそのお医者さんに口止めをしただろうことは明らかでした。でも、私の涙ながらの訴えに、ようやく口を開いてくれて分かったことは、とにかくミニョンの傷は深く、完治するのに3ヶ月以上かかったこと。その間ミニョンは、プロヴァンスの話を聞かせてくれたこと以外、事故に至る原因の一切は決して語ろうとはしなかったこと。三人のお手伝いさんは一度来たきりで、父一人が足繁く見舞いにきたこと。しかし、どうしてここまでの過失致死未遂に近い状況になったのか、聞いておかねばならない、とは言ったものの、父からもミニョンからも聞き出すことはできなかったし、事故に等しい状況だったことを理解して欲しいと、暗に了解を求める様子だったこと。もっとも、医者の義務より患者に対する思いやりでどうにでも解釈できる病状でもあったので、強いては聞かないことにしたこと。一応の退院の許可を与えたとき、父がミニョンを迎えに来て、かなりの額のお礼をすると言ったそうですが、怒って断ったこと……などを、要領よくかいつまんで聞かされました。
「患者の病状をカルテに従って話すわけにはいかないし、また、あなたのお父さんや家庭、そして彼女のことをなど、自分の見当と想像で話すわけにはいかないが、医者としてではなく、私個人の傷に対する所見は、嫉妬による一種の錯乱状態の挙げ句の行為のように思える」
 私が一番恐ろしかったお医者さんの言葉は、
「医者として、身内同然のあなたのような人には言いづらいが、動けないの間はなんとか明るく振る舞うようにまではなったが、私が感激するほどの毅然とした考えを持っている彼女は、傷は治癒したとはいえ、あの美しい女性が、醜い傷を負ったまま生きているだろうか。時折感じた例えようのない悲しい目の色と明るい振る舞いの中に、あるいは、ある決心をしていたのではないかと感じたのに、個人的にもっと心の傷を癒してやれなかったものかと、未だに後悔している」


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