第3章 破滅-9
私は、ことさら欲情をかきたてるような言葉を使い、大人になったミクの、それに相応しい色と反応を見せる部分を、優しく、時に荒々しく、吸い付き、啜り、肉体の内部に何ものかが蠢くように舌を使って夢中にさせました。ミクは、ドアの外にまで聞こえるのではないかと思われるほど叫び、わなないて果てていきました。
ミクは自らの喜びの中にいて、自分の唾液が私のソコに起こるべき反応と勘違いしていたかも知れません。私には、あの日を境に涸れてしまった涙のように、歓喜の蜜も涸れてしまったことも知らずに。
葉桜になってしまった私は、母とミニョンのその後の手がかりも得られないまま、それでも新しい環境での学園生活を淡々とこなしておりました。
ミクは学部が違うにも拘わらずフランス文学の講義に顔を出し、最後列の私の側に座るとお尻の下に手を忍ばせ、微妙なところで指を立てたりしました。
<Professeur! et s'il vous plaît autorise l'interruption de la conférence parce que c'était possible pour moi, affaire soudaine.(教授、急な用事ができましたので講義の中断をお許し下さい。)>
そんなことが度々でした。
サガンのフランス語の機微は、ミニョンに教えられて理解できるまでになっておりましたので、この種の講義はあまり興味が湧かなかったせいもありますが、ミニョンを思い出す講義内容の時間は、辛さに堪える時間のように感じたり、女性教授のフランス語の音の響きを、目を瞑って聞いていたい気持ちがない交ぜになって、いたたまれなくなる日がありました。いっそ学部を変えようかとさえ思うこともありました。そんな時にミクが側に来るとどことなくホッとして、教授にフランス語のニュアンスについて質問できたりするのでした。
「翔子のフランス語スゴイ。ねええ……フランス語でアソコのことなんて言うの? 英語でいうとPussyとかcuntだけど、……vulvaって言うのはストレートでしょ? そんなんじゃなくって、例えば<Cheeries>って複数でいうとオッパイのことを指すような、イヤラシイ言い方ってあるの?」
「セクシェリのこと……? そんなの知らないわ……。Pussyって猫のことでしょ? Le chat (ルシャ)なんて言うのかしら。でも、どうしてそんなこと知りたいの……?」
「アノね……翔子とするとき、ココとか、アソコって言うより、二人だけの言葉を使ってみたかっただけ……」
そんな会話をしているうちに、ミクの目の下が膨れあがってくるのでした。二人だけの会話はミクなりの前戯だったのでしょう。日本人形のような可愛い顔からは想像もできない、たっぷりと密生した毛の間から見えるミクの襞は、あの頃の綺麗なピンクから成人性を物語る変色を遂げていました。それを証明するようにミクの欲情は果てしがなく、私の舌と指が全てのように自分を私に押しつけながら、何度も何度も果てていきます。ミクは、私の無反応の部分の変化は気が付いていないようでした。
私は、自分の無反応な体をミクに知られるのを怖れる気持ちがありました。ですから、ミクの欲情がどれほど激しかろうと、例え一方的であっても、ミクを満足させてあげることを嫌だと思ったことはありませんでした。
欲情が鎮まった後のミクの明るい愛らしさは、私を癒す療法のひとつに思えたからなのです。