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〜吟遊詩〜
【ファンタジー その他小説】

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〜吟遊詩(第二部†旅立ち・試練†)〜-18

「僕のブレッド…『バルーン』」
エアルは血が迸る目で李ーを睨んだ。李ーは攻撃できずにいる。いや、李ーの抵抗は虚しく空をきるばかりであった。
そのままエアルは自分の短剣を抜き、李ーを斬りつける。
「きゃぁ!!」
周りにいた兵士や従女が叫んだ。
「トマラナイよ…」
エアルの目から涙が流れた。短剣を握る手は李ーの血で赤くなっている。
エアルは次々と人を浮かせては無抵抗にさせ、斬っていった。死んでいると解っても、直も短剣を振り続けた。

もう立っている者はいなく、それでもエアルの短剣は激しく降る雨を斬り続けていた。皆が倒れるまではほんの一瞬の出来事であった。
人が倒れる度にエアルの目からは涙が溢れた。
「ぼっちゃま!!もう…」
シェンが声を掛けた。しかしエアルには届いていないようで、
「ぅぅう…んゎぁぁ!!はぁ…父上ぇ…母…ぅっ」
声にならないうめき声を挙げている。
「ぼっちゃま!!」
シェンが振り下ろされ続けるエアルの腕を掴んだ。
温かい液体がエアルの顔に掛る。


視界が赤く染まり、エアルは我に帰った。
「シェン……」
エアルが無茶苦茶に振り下ろしていた短剣がシェンを傷付けていた。
「君は…味方なの?」
虚ろに霞んでしまった瞳をシェンに向け、エアルが聞いた。
血なのか、涙なのか、雨なのか……全てがエアルを汚した。
体も、心も……。
そんなエアルをシェンは強く抱き締めた……━━。


━━━━……。 
 シェンはそこまで話すと溜め息をついてユノを見た。
「実際、あの三人に脅されて計画に参加した者が大半ではありました…が、その謀反があって以来、エアル王は誰も信じなくなってしまわれた…。」
ユノはシェンの話が終わっても一言も発せず、紅い瞳でエアルを包んだ。
「…なんだよ。」
エアルがユノを睨む。
(何も分からないくせに。俺は…違う…)

「違うよね。エアル…」
ユノがエアルを抱き締めた。
「エアルは…お父さんやお母さんが殺されたから泣くんじゃない。謀反があったから人を信じなくなったんじゃない…」
エアルを抱くユノの手に力が入る。
「エアルは、人を斬った事が悲しかった…」
ユノの言葉に不機嫌そうだったエアルの瞳が小さく動く。
「エアルは、もう裏切る人を見たくないだけ。『裏切り』は醜いもん」
ユノは手を緩め、エアルを見つめた。
絡み付くユノの紅い視線。逃れても、逃れても、痛いほどエアルを見透かす━━…
「私も…人を斬った時、何も考えられなくなった。エアルの気持ち、全部は分からないけど分かりたいとは思う……シェンが居ればこの城は大丈夫だよ。エアルの築いた土台はしっかりしてるから。私と一緒に行かない?」
ユノは笑った。
「……結局それかよ(怒)ってか、やっぱり王がいない国が成り立つわけがないだろ!!」
エアルは飽きれ顔をする。
「王…」
不意にシェンが口を開いた。
「王は私共の事を信じていないかもしれません。しかし、兵士たちは皆、王の事を信じております。城のことなら心配無用でございます」
シェンは軽く胸を張った。更に、
「ユノ殿。エアル王にはユノ殿が必要でございます。煮るなり焼くなりお好きになさって下さい♪」
そう悪戯に笑って続けた。
「ありがと。シェン。このお城守ってあげて。私はエアルを守るから」
エアルの意見も聞かず、話は勝手に進められていった。

 こうして夜は更けて行き… 
メインブロックを集める旅は新たに『エアル』という、『持ち主となる人』(だろうと思われる…)が加えられたのだった……。

「だからぁー!!俺を無視して進めんなよー!!!」


〜吟遊詩(第二部†旅立ち・試練†)〜 【完】


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