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〜吟遊詩〜
【ファンタジー その他小説】

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〜吟遊詩(第二部†旅立ち・試練†)〜-17

外はいつの間にか雨が降っていて、今は虫の音も聞こえない。
「ぼっちゃま!泥に足がとられないようにお気を付けを!」
「平気!!」
馬の足が雨で柔らかくなった土に捕われそうになる。
五分も馬を走らせた頃、
「あっ!シェン。灯りが見えた」
周りに立ち込む霧の奥に鈍い灯りがが見える。王達を乗せた馬車のようだった。
「ぼっちゃまー!」
キョウを始めとする、部屋に取り残された者達がエアルとシェンを追って来た。
「あっ皆。馬車が見えたよ」
無邪気な笑いを見せるエアル。しかし、兵士や従女、家臣たちはそれどころではない。
(だから見えたらヤバイんだって!!)
急に霧の奥の光が不自然に揺れ始めた。
「あれ、馬車が…?」
エアルは不思議に思い、更に馬を走らせ馬車に近寄っていく。突然の事で止める者はいなかった。

━━━…一方。
王達が乗っていた馬車は城の近くまで来ており、道は丁度険しい、崖づたいに差し掛かっていた。
「よし!この辺でいいだろう。馬車を止めろ」
李ーが言った。道の横には当然底の見えない深い崖しかない。
━━ギィッ…━
急に馬車が止められ、それまで勢い良く走っていた馬が物足りなさそうに鼻を鳴す。
「着いたのか?」
王が窓から顔を出した。横から王妃も顔を覗かせる。
「なぜ急に止めるんだ?」
計画に関係のない兵士や従女が不安げに呟いている。
一行は20人ほどで構成されていた。しかし、その3分の2は王たちの暗殺を企む者であった。
「いえ、なんでもございません……」
シンが答えた。それを合図にするかのように、計画を知る兵士達が勢い良く関係のない他の兵士に斬りかかっていった。
「何を……━━!!」
腕に自信のある兵士も多勢の前には儚く散るだけであった。たくさんの血が雨と一緒に流れている。
後には王と王妃が残るばかり……。
王は王妃を庇うように自分の後ろに隠し、剣を抜いた。
「どういうつもりなんだ!」
「察しの通りですよ…『謀反』ってことです」
李ーが笑って言った。後ろには何人もの兵士が構えている。
「ここで死んで頂きます。事故に見せかけて…そこの崖に落ちたことにすれば誰も探せませんからね」
シンも続けて言った。
「…!!下がってろ」
そう言って王は王妃を後ろに突き飛ばした。
「いや!いやよ!アナタ!!」
王妃が泣き叫ぶ。雨は更に激しくなった。
王はあっと言う間に兵士たちに囲まれ、王妃からは見えなくなってしまった。時々、人の間から真っ赤な液体が吹き出した。剣のぶつかる嫌な音が聞こえる。
「おーい!!」
雨音に掻き消されそうになりながらエアルの声が聞こえた。
「エアル?」
涙を浮かべながら王妃が呟く。
「ちっ…バレたな」
李ーが舌打ちをした。同時に…
━━ザンッ━━…!!
一際大きな剣を振り切った音がして、囲んでいた兵士の輪が開いた。そこには王が抵抗したようで何人かの兵士が血を流して倒れている。さらに……
「あなた…!?」
まっ二つになった王の姿が輪の中から現れた。
「いや!!」
王妃が駆けより抱きかかえた。王の血で王妃は赤く染まっていく。
「父上!?」
ようやくエアルが馬車の所に着いた。翔ぶように馬から降りる。
「…何してるの?」
赤くなった王妃の姿を見てエアルが呟いた。
「これはエアルぼっちゃま…どうしてここにいらっしゃってしまったのです?知らない方が幸せと言うこともありますのに」
シンがそう言ってキョウを睨む。キョウ達もエアルを追って、ようやく着いたところだった。ばつが悪そうにキョウは目を伏せた。
「これはどういうことだ!」
シェンが叫んだ。皆、困惑した顔を見合わせている。ここにはエアルと、シェンと、王妃以外はすでに謀反に加わっている者しか残っていなかった。
「こうゆー事ですよ?」
そう言うと李ーは王妃を一刺しした。
美しい王妃の顔が歪む。その白い肌からは想像出来ないほどの赤い血が口から吐きだした。
「…っ王妃!!」
エアルが叫んだ。
「君達…も?知ってたの?」
真っ黒な瞳を兵士達に向ける。そこには開き直ったように笑う兵士たちの姿が合った。どこから取り出したのか皆、それぞれ武器を持っていた。
━━ズキッ…
急に腕の刻印が痛み出す。エアルが腕を抑えて聞く。
「君達…もしかしてメインブロックを狙ってる?」
「子供にしてはカンがいいね」
「ふざけんなよ!!」
今にも切れてしまいそうなくらい青筋を立て、エアルが叫んだ。
(血が…熱い。力が溢れる…トマラナイ!!!)
エアルの中で何かが壊れた。
━━トマラナイ…
「お子様は帰って寝てはいかがですか?」
李ーは卑下するように言う。そんな李ーの体が…
「李ー!!アンタ体が!!」
キョウが甲高い声で叫ぶ。
「えっ??」
目線が少し高くなったような気がして李ーは自分の足元を見た。足は地に着いておらず、地面より数十センチ上にある。
「…浮いてる?」

李ーが目を見開いた。


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