冥界の遁走曲(フーガ)〜第一章(前編)〜-3
3 闘夜は自分の部屋の中に入ってカバンを開ける。
そしてその中から学校でもらった手紙やお菓子を取り出す。
お菓子は冷蔵庫の中に入れて、手紙はその場であけて読む。
…最近は手紙が減ったな。
1年前までは10をあっさり超えていた手紙も、今では5,6通になっている。
闘夜にはきっとふさわしい彼女がいる、と女の子達が思い込んでいるからだ。
当の本人はそんな理由は全く知らないのであるが…。
闘夜はこの18年間、まったく人を好きになった事がない。
初恋もまだなのである。
闘夜はそういう所にうるさいのでラブレターに対しての返事はNOで返しているが。
「ん?」
しかし、今日の手紙の中に不思議な手紙が入っていた。
ほとんどの場合、闘夜に来る手紙は外装に明るい色の封筒が使われている。
しかし、その不思議な手紙は封筒が紫色であった。
あまり好ましい色とはいえない。
…不気味な手紙だな…。
不幸の手紙といった類のものか?とも思ったが、闘夜は手紙をもらった時、このような不気味な手紙をもらった覚えはまったくなかった。
闘夜はひとまず開封して中身を見る。
…その内容は闘夜にとっては不幸の手紙そのものであった。
友達にすら話さなかった自分の”能力”についての事が書かれていたのだ。
拝啓 神無月 闘夜 様
あなたがこれを見る頃にはあたりはもう暗くなっている事かと存じます。
と、そのような些細な話は置いておきましょう。
つきましては、私はあなたがずっと秘密にしてきた”能力”を知っています。
その”能力”について、少々話しておきたいことがありますので、
よって今夜の九時、あなたの通っている学校の屋上にて話し合いの機会を設けたいと思っております。
悪いようにはいたしません。都合がよろしければ是非来てください。
あなたの魂が来る事を心よりお待ちしております。
冥界の使者より
「な…!?」
闘夜は1人、驚いていた。
…何だこの手紙は!?
と同時に闘夜は時計を見る。
時間は6時18分をさしていた。
…あと2時間42分…!
時計の音が聞こえる。
カチコチカチコチと。
闘夜の顔から冷や汗が出てきた。
…落ち着け!落ち着くんだ!
闘夜は座りながら体を震わせていた。
…まずは普段どおりの生活をするんだ!
闘夜は自分に言い聞かせて台所に向かう。
そして闘夜はオムライスを作った。
闘夜は料理に関しても一通り作れるほどの腕前を持っている。
作ったオムライスをテーブルの上に置き、持ってきておいたスプーンで素早く平らげる。
ここまでの動作をした後、闘夜は再び時計を見た。
…まだ6時45分か…。
アレから、27分しか経っていない。
いつもなら、夜の食卓は作るだけでも25分はかけている。
今日は決して手抜きをしようとしたわけではない。
それなのに、今日はわずか15分で作ってしまっている。
おまけに、
…食った感じが全くしなかった。…
闘夜は自分で気付いている。
今、自分はあの手紙を気にしすぎている、と。
心の中で何回も落ち着け、と言って聞かせようとするが、心は全く言う事を聞いてはくれない。
「風呂に入ろう。」
闘夜は観念したかのようにそうつぶやいた。