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とある夫婦のカタチ
【若奥さん 官能小説】

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麻生家 肉食な嫁-3

そんな時、夫が失業した。勤務態度はしごく真面目だが、上昇志向もない夫は真っ先にリストラ対象にあがったらしい。

「オレが主夫じゃダメかな。」

冗談めかして夫が言ったことがある。確かに一人暮らし歴が長く、何をさせても器用な夫のほうが結婚当初からほとんどの家事をこなしていた。言い得て妙だが、家のローン、娘の教育費、生活費や老後のことを考えればそんな悠長なことも言ってられない。失業手当をもらいながら再就職先を探してもらっている頃、ちょうど高坂から新しい業務の担当を命じられた。通常業務にプラスして、だから必然と残業は多くなる。残業代はきっちり支給してくれる職場だったから正直ありがたかったし、夫はむしろ助かる、と言って協力してくれた。

「麻生さんって、旧姓佐々木さんだよね。僕のこと忘れたなんて言わないよね?」

新しい業務を担当するようになって、1ヶ月くらい経った頃だと思う。夫の再就職先は決まらないのに珍しく身体を求められ、不完全燃焼のまま終わった翌日。気が付いたら職場に残っていたのは高坂と凛だけ。イヤな予感はした。身体を満たしてくれることはない夫だが、確実に愛している。当時と同じ失敗はしたくなかったし、夫を裏切りたくなかった。

なのに、身体は正直だ。あっという間に高坂に再び飼いならされてしまった。聞けば高坂はあの直後に離婚したそうだ。突然消えてしまった凛をずっと探していたという。夫は絶対口にしないだろう、甘い言葉を沢山囁いてくれる目の前の渋みを増した男は、10年前の楽しかった記憶だけを呼び起こさせるのには充分だった。結局その夜、高坂の部屋で抱かれた。出産したとは思えない、と身体を撫で回しながらほめてくれる男。10年前も魅力的だったが、オトナの女になった凛もすごくいい、と自尊心をくすぐってくれる男。夫に嫉妬するフリをみせる、かわいい男。10年ぶりに絶頂を与えてくれた男。ピロートークでも充分に満足させてくれる男。どこをとっても草食な夫は持っていないものをこの男は持っていた。

仕事中は「麻生さん」と呼び、2人で外にいるときは旧姓の「佐々木」と呼ぶ。セックスしているときだけ名前で呼ぶ男。職場で誰かいるときは、業務に必要な会話以外しないし、ちょっかいを出してくることもない。2人だけで残業したのだって数えられる程度だ。今夜のように職場で交わったのははじめてだった。最近、娘の保育園行事が立て込んでいたり、身内に不幸があったりして、高坂とのプライベートな時間を全くとれずにいたら、ガマンできなくなってしまったらしい。

ピロートーク、とは言えないが後処理をして服を直す間、

「最近の凛は冷たい。」

などと言い出した。確かに誘われても断ることが多かったからかもしれないが、理由はきっちりわかっていて、その点について責めることも、離婚をせまることもしない男。やっぱりあの頃と変わらず、高坂はずるい男なのだ。それに甘えてずるずるとカラダだけの関係を続けている私も、充分にずるい女なのだが。

ぴちゃん、とバスタブの水面をはじく。そういえば、最近バスルームで交わっていない。高坂とバスルームで過ごす時間は好きだ。そう伝えたら高坂のご機嫌は少し直るだろうか。やっぱりスリル満点のセックスよりもきちんと向き合って集中してできる環境のほうがいい。娘のおもちゃやらが散在するバスルームで、生活感のない高坂の部屋を思い起こす。さぁ、そろそろリセットしなくては。おいしいハンバーグと優しい夫が待っているから。


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