完・決-4
〜〜〜〜〜
『うおおぉぉおおぉぉお・・・!!』
急に視界が開けて眩しい光が広がった。
それと同時に、全身を締め付けていた様な感覚が薄れていく。
「ここは・・・?!」
周囲を見回すと、寂しい木が並んでいる。ついさっきまでいたスージの森の中らしい。
全身に粘ついた液体が付着している。あいつのよだれか、汚いなぁ・・・
「お、お兄ちゃん?!」
「フィア、久々だな。元気だったか」
「・・・・・・う、うん」
化け物に喰われたかと思ったら、すぐにまた戻ってきた。
そんなお兄ちゃんに対して混乱し、唖然とした顔を見せてしまうのも仕方ないか。
『お、お前・・・僕に喰われて、なんで、げほっ、出られたんだ?!』
化け物は苦しそうに嗚咽していた。
体くらいある大きな手で、口から溢れてくる涎を拭っている。
・・・あんな手、さっきはあったか?目と口だけしか無かった筈だ。
『僕の体に入った人間は、動けないから脱出を諦めるはず。一度は喰われたくせに、見苦しいよ!大人しく死ねぇっ!』
「・・・!!」
化け物が右手を振り上げた。
咄嗟に、フィアを庇う様にして地面に倒れこむ。
まるで鞭みたいにしなる右手が俺の帽子をもいだ。
そして、すぐ傍にあった太い木を抉ってしまう。
空気を切り裂く鈍い音が耳の入り口に残っている。
『おっと、外したか。本当は丸呑みが好きなんだけど、たまには食べやすい大きさに裂いてからってのもいいかなぁ』
虫食いの様に一部を抉られた木の下に、いくつもの破片と破かれた帽子が落ちている。
頭を触ったけど、血らしきものは着いていない。ギリギリで躱せたみたいだ。
あんな爪で抉られたら骨まで一気に削ぎ落とされるぞ。
庇っても後ろのフィアごと殺されてしまうかもしれない。
・・・怖い・・・嫌だ、死にたくない。
さっき喰われて腹の中にいる時は何とも無くて、自分の浅はかさに憤りを感じるくらいだった。
死が目の前に近付いてきてる。
これじゃフィアの命どころか自分すら守れそうにない。
狂暴さを剥き出しにする化け物を前に、背筋が凍り付いて足が竦む。
・・・殺されてたまるか。
まだ父ちゃんにパンを認めさせてないし、フィアを守りたい。
家族のもとに帰るんだ、こんな奴に命をくれてやってたまるかよ・・・!
一か八か、やるしかない。
ここから生きて帰るには、殺されるよりも先にこいつを・・・
そうだ、これを使えばいい。
『まだ無駄な抵抗をするつもりかい、ガキ共』
俺が足元にあった木の破片を拾うのをみて、鼻で笑う様な顔をする化け物。
どうせ逃がすつもりなんか無いだろうから、ここでやらなきゃ無駄死にするだけだ。