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スージの森
【家族 その他小説】

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1・霧-1

かまどから取り出した焼きたてのパンを、ケースの上に置いた。
・・・こんがり焼けた狐色で、香ばしい匂いが漂っている。見た目は合格だな、自己採点で。

「さあ、食ってくれ父ちゃん。今度こそ合格だろ」
「肝心なのは味だぞ、ドライ。みてくれはいいパンならそんなに焼くのは難しくない」

大丈夫、今度こそうまくいくはずだ。
俺のパンは食べた人を幸せに出来る力がある。

「・・・・・・」
「どうだ、父ちゃん。旨いだろ。早く俺を褒めるんだ」
「不味くは無いな。だがそれだけだ」
「どういう意味だよ?全部食っといて、不味くは無いって」
「だから、驚く程旨くは無い。そういう意味だ」

・・・不合格か、これでもう何連敗だろう。虚しいよ。
お客さんの中には俺のパンを楽しみにしてくれてる人だっている。
友達は皆、旨いって喜んでくれるのに。満点のパンだ、間違いない。
でも父ちゃんにしてみたら、及第点にすら達していないらしい。
優しい顔して意外に厳しいからな、父ちゃんは。

「さあ、今日はもう店じまいだ。これくらいにして掃除手伝え」
「待てよ、今度はフランスパン焼くから。顎が疲れるくらいパンパンに生地が張ったやつ、焼いてやるよ!」
「うん、そうだ。その心がけは立派だぞ、ドライ。でも切り替えはもっと大事だ」

笑いながら箒と塵取りを渡してくる父ちゃん。

「お願い、あと一回だけやらせて。今度こそ父ちゃんに旨いって言わせてみせるから」
「楽しみにしてるよ。でも明日にしないか。今日はもう終わりだ、ほら」

・・・こりゃ、ごねても無駄だな。言うことを聞くしかないか。
俺は渋々箒を受け取って、仕方なく床を掃き始めた。
一体何が足りないんだろう。母ちゃんよりも旨く焼ける自信があるのに。

まだまだ努力が必要なのか。
父ちゃんの背中がこんなに遠いなんて・・・・・



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