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イート・ミー!
【コメディ 官能小説】

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イート・ミー!-9

何だかんだで昼休みが終わってしまえば、学校なんてあっという間だ。特に金曜日は。
「栄助〜、帰ろうぜ」
「ああ。夕張は掃除当番か」
「うん、甲斐もだって」
先に行ってようぜ、と富士は俺を促す。頷き、鞄を手に席を立つ。
俺達が教室から出ると、隣のクラスを思われる女子が立っていた。彼女は俺達を見るとはっとしたように声をかける。
「ね、ねえ」
「おおお俺!?」
素っ頓狂な声を上げる富士。嬉しさを隠せない様子で、俺とその子とを交互に見やった。
「ちょっと、時間いいかな」
俺は彼女の言葉に小さく笑み、富士に言ってやった。
「いいぜ、先に行ってる」
富士が口を開くより先に俺は踵を返した。背中に富士の声がかかる。
「うん、後で行くよ!」
いつもより更にテンションの高い、いつになく本気で嬉しげな声。
俺は振りかえらずに手を振って昇降口へと向かった。
やれやれ。あいつも彼女ができたら、俺に突っかかってくることもなくなるか。

俺が靴を履き替えていると、同じクラスの日出がラクロス部の部員と喋りながらやってきた。
「佐藤、今帰りー?」
「ああ」
ミニスカートのラクロス部の女子は目に毒だ。俺は短く答えてさっさと帰ろうと彼女達に背を向けた。
そして外を見て小さく舌打ちする。
「あちゃー、やっぱ雨降ってるじゃん」
「仕方ないね。皆に部活なしって連絡しておくよ」
「そうだね、ありがと。どっちにしろ校庭だめそうだし」
俺の心を代弁するように日出達が声を上げた。
俺はというと、傘を取りに行くべく再び上履きに履き替える。
「あれ、どうしたの佐藤」
「傘忘れた」
言って階段を上ろうとする俺に日出は言う。
「ならさ、悪いんだけどちょっと頼まれてくれないかな?」
彼女は両手を合わせてぺこりと頭を下げた。短い髪がさらりと揺れる。
また頼まれごとか、と思いつつも急いで帰らなければいけない用もない。夕張に甲斐、そして富士も例のハンバーガーショップには遅れてくるだろうから暇つぶしがてら請け負うことにした。
「どうした」
「さっすが、助かる! 」
ぽんぽんと俺の肩を叩く日出。
頼まれごとは、雨用の練習具を持ってこいというものだった。教室のロッカー上に載っているキャンバスバッグがあるから、それをまとめて持ってくればいいらしい。
「でさ、部室まで持ってきてくれると助かる。部室棟分かるよね? 二階の一番端っこ」
「……ああ」
別に日出が構わないならいいんだが、女子部の部室棟に俺みたいなのが入ってもいいんだろうか。俺が頷くと、日出は二人の部員達と共に部室棟へ先に向かって行った。

「げ、何だこれ」
――日出が部室棟まで持ってこいと言った意味が分かった。
見た目よりも重い大きなキャンバスバッグには、タオルや筋トレに使うような器具のほか、ダンベル代わりなのだろう砂の詰まったペットボトルが何本も入っている。ロッカーに入らないわけも納得した。
男ならともかく、たしかにこれを女子が持って行くのは辛いかもしれない。
(いいように使われてるだけなんだろうが)
俺はこの通り見た目が人好きする方じゃない。一年生の頃から親しくしている夕張達はともかく、クラス替えした当初など級友達に避けられていたものだ。
だから、こうしてクラスの女子なんかに頼られるのは悪い気がしない。もっとも、日出も二年から同じクラスになったにもかかわらず、夕張達と同様俺に普通に話しかけてきたひとりではあったが。
再び級友達と別れの挨拶を交わし教室を出て、俺はバッグと傘を手に部室棟へ向かった。


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