-続・咲けよ草花、春爛漫--3
「――一目惚れぇ!?」
俺は再び素っ頓狂な声を出してしまった。
そりゃ、入部希望の新入生が俺に一目惚れだなんて聞いたら、驚くより他はない。
「……いや、無理無理。俺、男だし」
俺は顔を顰めて首を振る。
すると小日向は笑って言った。
「安心して。一目惚れって言ってたのは女の子の方だから」
「なーんだよかった! ……ってよくねーだろうが、おい!」
俺は確かに男だ。男だけれども。
今は女なんですよ!? それで俺に一目惚れって……つまりそれって、レレレレズってことじゃないの!?
「男の子の方は、運動部以外でサークルを探してたところ偶然うちが目に止まったんだって」
普通にスルーかよ。
俺はがっくりと肩を落とし、大きく溜息をついた。
「3P……アリだな」
お前はお前で何を言っているんだ、鈴代。これを真面目な顔して言っているのだから、本当に神経疑うぜ。
俺は文藝研の、というより俺自身のこれからが心配になってしまった。
「ともかく、これで一応目標は達成したね。さっそく明日、顔見せだって」
「そういえば御形さんは?」
鈴代の問いに、小日向は肩を竦めた。
「先輩、体育祭の実行委員の集まりがあるって。ミハル君もそうだったんだよね?」
俺は頷きながら、少しばかり眉根を寄せて言った。
「今日俺が集まりに出たのは、代理でだよ。桑名がどうしても代わりに出てくれって」
サッカー部の新歓対応は外せないのだという。それなら、今の時期に集まりのある体育祭実行委員なんかに立候補しなければいいのにと思ってしまったが、桑名の他には誰もやりたがらなかったのだ。率先してやりたいと言ってくれるだけでもありがたい。俺も代理くらいならと、今日の集まりを引き受けた。
「体育祭、ね。今年は5月の20日だっけ? 案外日にちないんだな」
鈴代は言って、部室のカレンダーに目をやった。
そう、体育祭まであと一ヶ月半。去年も、入学して早々体育祭なのかと思ったものだ。
三年生の実行委員の集まりはほぼ毎日あるらしかった。新歓頑張ろうねと言った御形先輩があまり部活に顔を出せていないのも頷ける。
「でも」
にやりと鈴代は俺と小日向を見て笑う。
「二人の短パン姿が拝めると思うと、俄然楽しみになるな」
今年はクラスが別になって体育の時に見れないから、という鈴代の言葉に、俺は思わず顔を顰めた。
「止めろ、セクハラ野郎」
「鈴代君はD組だっけ?」
相変わらず小日向のスルー能力は半端ない。笑顔で鈴代に問う彼女に俺は感心する。
鈴代は頷いて言った。
「そうだよ、D組。できれば今年も一緒がよかったんだけどね」
「俺はほっとしてるよ」
その爽やかな笑みが気に食わない。俺は口の端だけは吊り上げてそう吐き捨てた。
「D組かぁ、それじゃあ文藝研の皆とは団が被ってないのね」
小日向が少し残念そうに言った。
しかし鈴代は気障ったらしく髪を掻きあげて答える。
「気にすることないよ。三年D組にはミス・七ノ森がいるからね」
こいつ、本当に節操ないな。
呆れて俺は鈴代を見やり、溜息をついた。
どうしてこんなにもクラスを気にするのかというと、それは七ノ森の体育祭に理由がある。
体育祭は三団体――各学年A・B組、C・D組、E・F組が組みになった縦割りで構成される団体で、一位を競うことになっている。一年から三年までの交流も体育祭の目的のひとつとなっており、新入生のレクリエーションに最適だということらしい。だから、クラスというのは横だけでなく縦もかなり重要になってくる。
ちなみに今年は、俺と小日向がB組で、鈴代はD組。御形先輩がE組で、田平先輩がA組だ。つまり俺は小日向と田平先輩と同じ団体。鈴代と御形先輩は敵となるわけだ。
今年の優勝団体には優勝賞品として学食の食券が貰えるらしいから、頑張るしかない。
「そういえば、新入部員の二人は?」
俺が気になって、入部受付のノートを開こうとすると、それを小日向が止めた。
「明日までの秘密」
笑顔で言われれば仕方ない。
俺は苦笑を浮かべて肩を竦めたのだった。