〈利益の卵〉-7
『……良い写真ね』
母親はその写真を好意的に受け止めていた。
健康的で清純で、鮮烈に登場した美少女の写真集。
イヤラしさを感じさせぬその作品に、母親も満足げだった。
DVDにしても、美優の美しい身体を余す所無く記録しており、水着に包まれた清らかな肢体を惜し気もなく披露していた。
プールの水滴を滴らせ、フルフルと震える臀部は、発情した《牝》が、汗を噴き出しながら痙攣しているような錯覚を起こさせる。 だが、そんな映像ですら、卑猥とはとられない出来映であった。
『大人顔負けの出来じゃないか。頑張ったね、美優』
父親も、恥ずかしさに顔を赤らめている美優に、作品の出来を褒め讃えた。
妹も同様に、『可愛い可愛い』と、しきりに繰り返し口にし、美優を誉めそやしている。
(あの恥ずかしい写真、載ってなかったな……良かった……安心した……)
美優の嫌いな“あの写真”は、写真集にもDVDにも無かった。
どこをとってもアイドルらしい写真集の出来に、美優は安堵し、そして安心していた。
そして何より、家族が褒め讃えてくれているのが、たまらなく嬉しく、美優の表情は緩みっぱなしだった。
『さ、今夜は外食しようか?美優の行きたい店に行こう』
父親の言葉が、美優には嬉しかった……自分を産んでくれた母親より、今の後妻の方を愛し、自分よりも新たに産まれた妹の方を溺愛していると思っていたからだ。
父親は何も変わっていない。
変わったのは、むしろ自分の方だと、美優は自身を責めた。
「……パパ…ありがとう」
幸せに包まれた表情で、美優は父親に抱き着いた。
父親も少し照れながら、美優を抱きしめてあげた。
親子四人は、楽しく談笑を交わしながら、車に乗り込んで街へと消えていった………。
翌週の金曜日。
いつものように美優は学校から帰宅し、玄関を開けた。
「ただいま」
今の美優は元気な挨拶で玄関を開けていた。
以前の申し訳ないような口調ではない。
グラビア撮影でも、依然として恥ずかしさは感じるものの、それでも思いきったポーズをカメラに向けて、精一杯に輝いてみせていた。
あの写真集とDVD、その売り上げは上々であったし、その後のグラビアでの頑張りの甲斐もあって、〔佐藤みゆう〕の支持者は着実に増えていっていた。
まさに順風満帆。
仕事も増え、今春からは中学生になる。
新たな学校生活への期待と、新たなアイドル活動への期待に、美優は浮かれていた。