シグナル¨5¨-7
〜(Kenji's Side)〜
みんなもう帰っちまって、あとは俺と杏子だけだ。
「ふぁあ〜〜・・・」
間延びした欠伸をして、口をむにゅむにゅさせている。
何だか、そんな何気ない仕草も可愛く見えちま・・・
「疲れたぁ・・・」
「あっ、杏子?!おいおい、お前・・・」
こつん、と俺の肩に頭を乗せてくる。
心臓が急に早く鳴り始めた。うるさい・・・ああ、とてもうるさいな。
「賢司くん・・・もう少し、このままでもいい・・・?」
「あ、ああ・・・・・・」
杏子はか細い声で言った。
何だか、妙に肩が重い感じがした。体重がかなりかかってる様な・・・
それに息遣いが弱い・・・ま、まさか杏子のやつ
「大丈夫か?」
「・・・えっ、う、うん。平気だけど・・・」
こいつは強がっている。
これは明らかに疲れてる息遣いだ、平気というには弱く聞こえるぞ。
それにあまり顔色も良くない。唇の色もあまり・・・!
嫌な予感が当たっちまったか、くそっ。
「次で降りて病院行くぞ」
「だ、大丈夫だよぉ。私は全然平気・・・」
「無理すんなよ。プールにいた時から具合が悪かったろ」
「・・・・・・分かっちゃったか。賢司くん、いつも気付くもんね」
そうだ、気付いてた。
何となく辛そうだったのは分かっていた。
それでも杏子は顔に出さない様にして、いつもと変わらない柔らかい笑顔を見せてたんだ。
「ほら、もう着くぞ。すぐ病院に・・・!」
すると杏子は俺の手に自分の手を重ねて、微笑んだ。
何故かその顔は無理している様には見えず、俺を宥めてる様にも見える。
「本当に、大丈夫。泳げないのに無理したから、ちょっと体がびっくりしただけだよ」
でも、俺に心配させない為に強がってるんだ。きっと。
本当は笑顔でいるのも辛いだろうに・・・
「うん、分かった。でも・・・さ、念の為に病院は行こうぜ。な?」
「・・・・・・」
こくん、と杏子は頷いた。
俺は小さな手を離さない様に握り締める。
次の駅に到着し、すぐに降りて駅員に教えてもらった近くの病院に駆け込んだ。
呼ばれてから数分後、杏子が診察室から姿を見せる。