『ツンデレちゃんと硬派くん』-6
一方、洸太郎はその頃。
…走っていた。
宿に戻ってからは、なんとか興奮を鎮めるべく、よく冷えた水を飲んだり、OBと練習について話をしたりして、風呂に行くのを長引かせていた。
やっと熱が冷めてきたので部屋に戻ったのだが、なんと忘れ物をしたのに気付いたのだった。
「部長!…クラブハウスの鍵、貸してください」
グラウンドの横には小さいながらもクラブハウスがあり、トイレやロッカーが備わっている。
そこに、今日の荷物をすっかり置いてきてしまったのだ。
練習が終わった頃の自分の頭ン中が、いかに李湖でいっぱいだったかと思い返すと恥ずかしい。
…―やべぇやべぇ!
早くしないと夕飯になっちまう。
つーか、まだ風呂も入ってねーし!
走ってグラウンドを往復すると、その荷物の中に未使用のタオルがあったので、そのまま大浴場に飛び込んだ。
もう空っぽの風呂場で体を洗い、湯船は汚そうなので遠慮すると、さっさと上がる。
「…あ、やべ」
昨日よりも広く感じる脱衣所で、思わず漏れた独り言は、着替えを忘れたせい。
グラウンドの往復ダッシュで、Tシャツは汗でびちょびちょ。
仕方無くジャージのズボンだけ履き、上半身は裸、タオルを首にかける。
マネージャー2人には会いませんように、と願いながら大浴場を出るも、
「「…っ!」」
階段で、下りてきた李湖とばったり。
「め、飯は?」
「…」
とりあえず浮かんだことを口にするも、李湖は答えない。
「…李湖?」
「い、今…から、準備…」
言葉を絞り出す李湖の顔は、オトコのハダカを見たせいで、真っ赤になっていた。
こちらまで恥ずかしくなって、頭に血が昇る。
そこへ、ぱたぱたと足音がして。
「あーいたいた。
李湖、早くごはんの支度、…にゃほー〜〜!!」
サナが、突然奇声をあげたかと思うと、走って来て、ぴしゃぴしゃと洸太郎の体を叩き始めた。
「誰かと思ったら、小沢じゃん!
うひょーめっちゃイイカラダしてんね、アンタ!
知らんかった、なにこの筋肉!
にゃほー、うひょー!」
サナが興奮してまとわりついてくるので、洸太郎は大人しく叩かれていたが、
「サナちゃん!
ごはんでしょ、行こ!」
と李湖が階段を駆け下りてきて、サナを引っ張って行く際、ふわりとシャンプーが香り、またも李湖に心が奪われてしまった。
その李湖は、真っ赤になって声を荒げ、なんだか涙目にもなっているようで。
…―やっぱツンデレだよなぁ
照れて怒ったような顔もかわいいな、なんてニヤケる洸太郎なのだった。