第二章 合わない視線-4
「お待たせしました〜」
しばらくして、そんな声とともに和泉さんに手を引かれたばぁちゃんが戻ってきた。
「百瀬さん、息子さんたちとお孫さんが来てくれてますよ!!」
和泉さんは、ばぁちゃんが俺たちに気がつきやすいようにか、身振り手振りもさらに大きく声を掛けてくれて、そして、そっぽを向いていたばぁちゃんはゆっくりとこちらを向いた。
「…ばぁちゃ…」
「こんにちは」
予想以上にはっきりとした口調で、ばぁちゃんは挨拶をしてくれた。
でもそれは、自らの血を分けた子供や孫へ向ける親しみを込めた言葉ではなく、あくまでも、目の前にいる他人に対する行儀のひとつとしてのそれだった。
そしてその冷たさは、少なくとも、懐かしさに溢れていつもの慣れ親しんだ呼び方で声を掛けようとした俺の、もしかしたらさっきのは間違いで、いつも通りのばぁちゃんに戻ってるんじゃないか…なんていう淡い期待をブチ砕くには充分すぎるほどだった。
「…なんで、わかんねぇの?」
「亮、やめなさい」
俺が何を言うつもりか、いち早く察した親父の声は確かに俺の耳に届いたけれど、俺に次の言葉を止めることはできなかった。
「なんでわかんねぇの、ばぁちゃん!俺だよ、亮だよ!ばぁちゃんに会いに来たんだよ!!」
頭の中では確かに『ヤバい』という警報が鳴っていたのに、気がつけば俺は、痩せて一回り小さくなったばぁちゃんの肩を掴んで大声を出していた。
「…あ…」
視線の先のばぁちゃんは、怯えたように目を丸くして俺を見ている。
「…ごめん、ばぁちゃん」
慌てて掴んでいた肩から手を離した。
俺の怒鳴り声に驚いたのか、それまでザワザワしていた周囲も静まりかえっているようだ。
「俺…」
一瞬、視線を床に落とし、再び俺の顔を見つめたばぁちゃんはひどく悲しい顔をして、突然、支えていた和泉さんの手も振り払いフロアの方へと歩き出してしまった。
「あ、百瀬さん!」
慌てて後を追いかけようとする和泉さん。
だが、ふと立ち止まりこちらを振り返った。
「あの、百瀬さん悪気があるわけじゃないから…」
(…わかってるよ。わかってるから、そんなふうに言わないでくれ)
俺は、言葉にできない情けなさと後悔で下を向いた。
その時だった。