投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件
【推理 推理小説】

葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件の最初へ 葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件 12 葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件 14 葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件の最後へ

葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件-13

−:−

「あっはは、いい気味だった! マジうけるんですけど!」
 下手の控え室へと戻った真帆は開口一番大笑い。どうやらすごすごと帰る男達の惨めな後ろ姿が痛快だったらしい。
「もう、あんなことしていいの? ファンなんでしょうに……」
 真帆の豹変振りに驚いていた梓も、彼女の思惑を理解しており、それほどたしなめるつもりもない。
「いいのいいの。ああいうのはいらないから。っていうか、あたしは別にタレントとかそういうんじゃないの。彼氏が居ようが居まいがどうでもいいしね」
 そういってミルクルを飲む真帆は、本当に楽しそうに笑っている。
 彼女の思惑は真琴に彼氏を演じてもらうこと。ここ最近のおかしなファンには苦い薬になっただろうと彼女は言う。
「それに澪さん。ナイスクシャミ。あの音響の人もクールにオチをつけてくれたよね。なんかもう、一仕事完成させたって感じ」
「あはは、あたし鼻炎だから……」
 照れ隠しなのか澪は余計なことをぼそりという。さすがに贈り物の花束を台無しにしたのは、気が引けているところがある。
「でも大丈夫かな。なんか逆恨みされて真琴君が被害に遭いそうだわ」
「大丈夫大丈夫。男の子だし平気だよね? うふふぅ!」
 上機嫌の真帆は無責任に真琴の頭をなでなでとする。
「もう、さっきから真帆、真琴君になれなれしいわ! 少し離れなさい!」
 我慢が出来なくなったらしく、梓は真琴と真帆の間に割り込む。
「いいじゃない。減るもんじゃないし、それに真琴君だって楽しいでしょ?」
「真帆の手垢が着くみたいで嫌なの。とにかく離れなさい。貴女はこれから舞台でしょ? ちゃんと集中しなさいってば!」
「リラックスするくらいが丁度いいのよ。ね〜真琴君!」
「何が真琴君よ。ちょっと澪も何とか言いなさいよ!」
「え? あたし? あたしは別に……。まあ真琴も男の子だしねぇって感じかな……」
「澪、それどういう意味さ……」
 フォローにならないことを言われて真琴もしょげてしまう。彼としてはもう少し彼女に関心を抱いて欲しいのだが、それはまだ無理なのかもしれない。
「失礼しまーす……」
 控え室のバカ騒ぎに水を差す涼やかな声。扉が開くと、一郎に促される形で見知らぬ女性がやってくる。
 白のニットセーターとゆったりとしたフレアスカート。上品な顔立ちの彼女はパンフレットに大々的の掲載されている喜田川久美だとすぐにわかる。
 澪や梓、真帆と比べても大人っぽく、嫌味にならない程度の化粧と春らしい色のルージュ。優雅な大人の女性という雰囲気だった。
「あ、喜田川さん。こんにちは。今日はよろしくお願いします」
 一転、真帆はしおらしい声を出して深々とお辞儀する。
「五十嵐さん、私こそよろしくね」
 久美もお辞儀を返し、控え室の奥のほうへと行き荷物を置く。
「あ、えと、台本忘れてた……ちょっと取りに行きます……」
 すると真帆はとってつけたようにそう言い、三人を急かすようにして控え室を出る。
 わけのわからない真琴達は下手側のやや広いところで彼女を待つ。
 真帆は二、三挨拶をした後、そっとドアを閉め、渋い顔になる。
「あの人が喜田川さん……」
「そ……。うちらのスポンサー様ね」
 嫌そうに舌を出す真帆。おおよそのことは梓から聞いていたが、そこまで露骨に嫌うのは、彼女の役柄とパンフレットの位置だけには思えない。
「へぇ……、思ったより怖くない人だね」
 身近に怖い女の子が複数居る真琴としては自然に出た感想であり、慌てて口を閉ざす。
「要はパパリンがお金もちってわけ……」
 真琴の言葉には気が付かなかったらしく、真帆は手近にあった椅子にどっかりと座り、ため息をつく。だが、すぐに思い出したように梓に向き直り、すまなそうな顔になる。


葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件の最初へ 葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件 12 葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件 14 葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前