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描き直しのキャンバス
【学園物 恋愛小説】

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描き直しのキャンバス-6

***
 いつものように美術室に向かう秀人。しかし、教室の前に来て入るのを躊躇する。
 普段ならはるか一人のはずなのに、今日は誰かいる。
「……はるか君、その、今更こんな事いうのはずるいけど……」
 低い声なのに無理に明るい声を出そうとするのが気持ち悪いその男は、はるかを後ろから抱きしめる仕草をしており、彼女もそれを拒む様子が無い。
「……別にいいじゃないですか、悪いのは私だったんですから……」
「……もう一度やり直せないかな……」
「……いまさらそんなこと言ってもしょうがないでしょ……」
(ずるい? 悪い? なんだか話が見えないな……)
 とはいえ、ずかずかと入るにも気が引ける。だが秀人は美術部員、入る権利はある。
 もっとも二人の会話に入る権利は無いのだが……。
「失礼します……」
 勇気を出してドアを開けると、部室の奥にいたはるかと見知らぬ男性教員が振り返る。彼はスーツ姿ではあるが、よくみるとそんなに老けておらず、むしろ若いぐらい。
 二人は突然の侵入者に目線を向けるが、はるかはすぐにいつもの顔、というよりは三割増し媚を売る顔を作り、駆け寄ってくる。
「あ、秀人君、オハヨ!」
(なんか変なの……)
「えっと、先生は誰ですか?」
 入学式の日も見たことが無い。美術の授業は選択していないが、話に聞いたところ、おじいちゃん先生が出席を取る授業と聞いていた。
「彼は先生じゃないわ。そうね、OBってトコかしら」
「OBって、先輩の先輩ですか?」
 秀人が不思議そうに目を向けると、OBと呼ばれた男は困ったように頭を掻く。
「いや、そうじゃなくて、僕は去年まで美術部の顧問だったんだ。非常勤だったけどね」
 非常勤に顧問を任せるのだろうか? それはさておき、いないと思っていた顧問が急に顔を出すのは面白くない。というより、二人の部室を汚されるみたいで腹が立つ。
 もちろん秀人の勝手な思い込みなのだが……
「それならもう部外者ってことですよね、なんでいるんですか?」
 口調もきつくなる。秀人の入部動機のはるかと親しげ(?)に話していたのだから。
「ああ、そうだね、ゴメン。僕は自分の荷物を取りに来ただけで、はるか君がいたから懐かしくてさ……、でも僕はもう部外者だからこれで帰るよ」
 そう言うとOBは部室の隅にあったイーゲルをたたみ、そそくさと出て行く。
「それじゃ君もがんばってね」
 それでも元教員らしい社交辞令を忘れない。
「はい……」
(あれ? この人……)
 秀人は何か違和感を持ち、走り去る彼の背中を目の端で追ってしまう。
「まったく、ウザイったらありゃしないわ……秀人君、今日は部活中止、やめ! 掃除をします! ほら、片付けて」
「え、でも俺、何もしてませんよ……」
「なら私の手伝い! ほらさっさと動く、返事は!」
「はい!」
 何処か怒ったようなはるかに逆らうことも出来ず、秀人は美術室を往復する。


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