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描き直しのキャンバス
【学園物 恋愛小説】

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描き直しのキャンバス-7

***
「はい……」
「つめたっ!」
 掃除を終えて、一息つく秀人の頬に紙パックのジュースが押し付けられる。そんなに冷たくないが、それでも結露した水滴で頬が濡れるのが鬱陶しい。
「秀人君のおかげで助かったわ。私一人だと、どうもめんどくさくて掃除する気が起きないのよね」
 開け放された窓枠に腰かけ、風を受けながら紙パックジュースを飲むはるか。
 確かに一人で掃除をするには広すぎる……といっても結局は秀人が掃き掃除からからぶきまで、一連の作業を一人でこなしたわけだが(はるかはあくまでも指示を出しただけ)。
「でも先輩、さっきの人が顧問じゃないんなら、別の人先生がいるんですか?」
「今はおじいちゃん先生なんだけどね、あんまり無理させて倒れたら大変だし、まぁあれよ、幽霊顧問って奴かな」
 幽霊顧問というのは言いえて妙だが、本人の前で言わなければ問題は無いだろう。それより、秀人はさっきの会話が気になっていた。
「でも、先輩とさっきの人……」
「秀人君、もう帰っていいよ、鍵は私が返しておくから……それじゃ、お疲れ様」
 淡々とした、それでいて力強く、反論を許さない声。視線こそ秀人に向かっているが、見ている感じがせず、これ以上追求できる空気ではない。
「お疲れ様でした……」
 荷物をまとめ、早々に部室を後にする秀人は、心のどこかにモヤモヤしたものも抱えている。
 秀人自身、それがわかりかけているからこそ辛いのだが……。
***
 放課後、いつもなら真っ先に部室に向かうのに、秀人はぐずぐずしていた。
 なぜかというと、最近部活がつまらないからだ。
 理由は、はるかがうわの空な為。
 もともと美術に興味を持って始めたわけでない秀人にしてみればそれは一大事。つまり目的を失いかけているわけだ。
 何故こうなったのか、その理由はおぼろげながら分かっている。あの元非常勤講師が原因だ。
 彼は既に学校を去っているわけだが、それでもその足跡をたどることは不可能ではない。在校生の中には耳ざとい者も居るわけで、彼を知っている人も居るはずだ。
 問題はコネクションが無いこと。聞くのなら先輩になるのだろうけれど、はるか以外に知り合いの先輩がいない。
 かといって本人に『先輩と非常勤講師の間に何があったのですか』などと聞けるほど、秀人は豪胆ではない。となると捜査は開始からして詰んでいるわけだった。
「なぁ高山、レポート写させてくれよ」
 また例のクラスメートがやってくる。
「ふざけんな、俺は美術部で一、二を争ってるんだぞ? 忙しいんだから他を当たれよ」
 ウソではない。二人しかいないのだから……。
「あぁそうかよ、冷たい奴! もうたのまねぇよ」
 勝手なコトを言う石垣はそういうと、別の気の弱そうな男子生徒を探し始める。
 例えば石垣のレポートを代わる見返りに、元非常勤講師の噂を探るのも良いかもしれない。しかし、それが出来ないのは『言い返せない奴』といわれたのが癪だから。
 結局捜査は進展することなく、今日もつまらない部活へと向かう秀人であった……


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