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『深夜のコンビニ』
【OL/お姉さん 官能小説】

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『スープ』-5

夜。
アパートに帰って来ると私の部屋の窓から明かりが漏れていた。

(田中くん…いるんだ)

そう思ったら何だかとても緊張して、私は深呼吸をしてから勢いよくドアを開けた。

「あ、おかえりなさい!」
「何…してるの?」

私を出迎えたのはエプロン姿の田中くんだった。

「何って…見たらわかるでしょ?晩ご飯作ってたんだ。あ、鞄!お預かりしまーす。早く着替えて来て下さい。すぐ食べられるんで」

何だか想像していたのと違っていて軽く混乱する。着替えるために寝室へ向かい、戻ってくるとテーブルに料理が並べられていた。

「菜々子さん!座って!」

床のクッションをポンポンと田中くんが叩く。

「あ、うん…」

座るとずい、と器を目の前に出された。

「肉じゃがです」
「田中くんが作ったの?」

こくりとうなずく田中くんを横目に見ながら私は一口頂く。
見た目にも美しいきらきらしたじゃがいもにはしっかりと味が染みていて、口の中でほろりと崩れたのち醤油とみりんの風味をふんわりと残して消えた。

「おいしい…」
「や、やった!この照りを出すためには、はちみつを入れるのがポイントなんだって!ごはんもどうぞ」

田中くんがうれしそうに差し出してくれたお茶碗を受け取ると、猛然と食欲が湧いて来た。

(そういえばお昼も食べてないんだった…)

こんなきちんとした家庭料理を食べるのは久しぶりで私は夢中になって食べてしまった。
満腹になってお味噌汁を啜ってから私はやっと我に返った。

「あのさ…田中くん」
「はい?」
「何も聞かないの?」

私の言葉に田中くんが箸を置く。

「分かってますから。菜々子さんが別に俺のことそんなに好きじゃないって。最近メールとか全然来ないし…あ、もちろん仕事が忙しいっていうのは分かってますよ。それとは別に好きな人ができたんじゃないかって少し前から思ってました。これでもわりと空気は読める方なんですよ、俺」

田中くんはそう言うとはは、と小さく笑い声を漏らした。目は全然笑っていない。

「田中くん…」
「最近会ってても菜々子さん全然楽しくなさそうで。でも、そもそも俺が頼み込んで付き合ってもらったんだから仕方ないですよね」
「そんなことないよ。私だって」
「あんなとこ見ちゃってショックだったけど、問い詰めちゃったらもう菜々子さんとは一緒にいられないじゃないですか。それなら何も言わない方がいいと思ったんです」
「だからね…」
「今日は別れ話されるって分かってます。最後だから何か菜々子さんにしてあげられることないかって考えて…それで料理作ってました。でも俺から終わらせる勇気なんてないです。だからもう菜々子さんがはっきり言って下さい!」
「だから私だって田中くんのこと好きだってば!」

私はそう言うと勢いよくテーブルを横にずらして田中くんに抱き付いた。コップが倒れてお茶がこぼれ、カーペットにぽたぽたと雫が落ちる。


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