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夏の日の帰り道
【青春 恋愛小説】

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夏の日の帰り道-2

*――*

 五十鈴書店。
 私の住む町に本屋はこの一軒しかない。
 昔はちらほら小さな書店があったのだけれど、店主の高齢化と本離れに伴い、減ったらしい。
 私もあまり本を読むタイプじゃないし、暇つぶしは携帯があれば十分だ。それにいざとなったら頼子でも呼べばいい。今日は呼ばれたわけだけど。
「良太君、急いでね」
 荷台にお嬢様すわりをする私は優雅に日傘をさす。
 風を切るスピードは不快な暑さを和らげてくれる。おしりはちょっと痛いけど、それなりに快適だから許してあげる。
 たまに髪を靡いてみると、なんとなく自分の立場を錯覚できるけど、等身大の私はどこにでも居る女の子より、ちょっぴりぶきっちょな女の子。
 流行とかそういうのは追いかけているつもりなんだけど、どうしても醒めている自分がいるし、件の雑誌、ラブ・ナントカも先月号を積ん読くしてる。
 流行の髪型は手入れに毎朝一時間近くかかるといわれて、今はボーイッシュな短髪。ブラは面倒のないスポーツブラだし、このキャミソールだって頼子に選んでもらったもの。
 男の子を好きになれば少しは変われるとよく言われるけど、高校に入ってからもその兆候は無い。
 唯一のボーイフレンドは幼稚園からの同級生のコイツだけ。
 野球部に所属する彼は例によってあの丸刈り。中学の頃は髪とか鬱陶しい感じに伸ばしてて女の子に人気あったみたいだけど、なぜか今も一人身。
 私とはお互いを知りすぎてっていうか、こいつにそういうのを期待するのは無理だ。
 だってさ、こいつがいくつまでおねしょしてたかとか、私がデパートで迷子になったとか、そういう恥ずかしいこと全部握り合ってるんだもん。
 いわゆる腐れ縁なのよね。
「本屋ね〜……って、あー、もしかして頼子ちゃんに言われたとか?」
「ん? あぁ、あんたも?」
 私の友達は頼子の友達。なんだか狭い交友関係な気がする。
 けど、コイツにまで頼むとか、一体何なんだろう?
「つか、皆にメールしてるっぽいね」
 良太の後ろポケットを探って携帯を弄る。途中バカが「大胆なんだな」とか言うけど無視するに限る。
 メールの送信先はCCで知り合い全員。。
 マジで?
 一体なにがあるっていうの? 今月号のラグ・ジュアリーだっけ? の五十七ページには!

*――*

「おーい、みぃやぁこぉ!」
 五十鈴書店に着いた私たちを出迎えたのは頼子本人だった。
 私が良太と一緒にいるのを見て、なんかにやついてたけど、夏だから暑さで頭がかわいそうなことになったんだと思う。
「ありがと、それじゃここで待ってなさい」
「はい、お嬢様……ってちがうわい! 俺も気になるわ」
 メンドイからここで帰ってくれたらよかったのに、良太がついてくる。ただでさえ暑苦しいのに、どうしろっていうのかしら?
「おっす頼子ちゃん。いったいどうしたの?」
「んふふぅ、それは見てのお楽しみ」
 彼女はこの炎天下の中ずっとここで待っていたのか、額といわず全身汗だくだった。でも、一番怖いのは、それでもにっこりと微笑んでいること。
 やっぱりこの暑さのせいでおかわいそうなことになっているのかしら……。


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