第7話-4
¨あ、あのさ、お父さん、一緒に出かけない?¨
¨いいけど、どうしたんだ急に。珍しいな¨
¨ちょっと話があるの。たいした話じゃないんだけど¨
映画は娘がようやく父親と向き合う決心をした大事な場面で、佳境に差し掛かっていた。
こちらの方は¨佳境¨にいつ突入するか気が気じゃない。早貴は興奮したら何をするか分からないからな・・・
鼻がくっつく程密着した顔と、極度の緊張でうまく呼吸が出来なかった。
更に、あまり大きく息を吸い込んだら気付かれるのではという思いもあって、酸欠を起こしかけていた。
早貴はもう一度唇を離し、さっきと同じく口をもごもごと動かしている。
「もっと、飲んで。私のぉ・・・」
¨はい、飲んで¨
唾液を流し込んでくる早貴と、父親にジュースを渡すスクリーンの中の娘。
同じ様な言葉なのに、意味合いはまるで違っていた。
口から溢れそうなくらいの量を、舌で強引に押して流してくる早貴。
一体何故こんな事を、急にやりだしたんだ。今までと同じく家の中なら分からなくもないのに。
「おとぉさんもしてぇ、私に飲ませて」
お・・・同じ事をしてくれっていうのか。ここで唾液交換をしろと?
顔から目を逸らしたら、手を握る力が更に強くなった。
表情は変わらなかったが、有無を言わさぬ静かな気迫が滲み出ている。
分かった。
それで早貴が喜んでくれるのなら、してあげよう。お前が望む様にする。
甘さの残る舌で歯の裏を舐め、唾液の分泌を促す。
手は繋いだままで、早貴にそっと口付けを交わした。
舌で口の中をほぐす様にしばらく舐めてから、溜めていた生暖かい液体を移していく。
自分から求める様に伸ばした早貴の舌の上に、とろりと流れていく俺の唾液・・・
「あったかい、お父さんの・・・えへへ」
早貴の欲求は、二人きりの場所だけでは収まらなくなってきたのだろうか。
それとも、これも俺とのスキンシップの延長戦上にあるものなのか・・・?
¨なあ。たまには、お父さんを頼ってもいいんだぞ¨
¨・・・・・・¨
¨誰だって一人じゃ立ってられないんだ。だから、な¨
父親に抱き締められ、瞳を潤ませている娘。
あちこちから鼻をすする音が聞こえてくる。
今日、この映画を見た家族はきっと幸せな気分に浸るのかもしれない。
女の子は父親に、せめて今日だけは優しくするかもしれない。
去年迄は早貴も、映画を食い入る様に見て瞳を潤ませていた。