第7話-2
「ポップコーンとコーラ買ってくるね」
「俺は飲み物だけでいいよ」
「はーい。ちょっと行ってくるね」
売店に向かう早貴を見送りつつ、辺りを見回してみた。
カップルもそれなりにいる様だがやはり家族連れが多い。
見ることができる範囲に限るかもしれないが、夫婦に子供という組み合わせが殆どだった。
いないのかな、娘に父親だけというのは。
父親と息子、或いは母親と娘らしき組み合わせは幾つか見受けられるが・・・
まあ、いないか。逆に息子と母親というのもいないので、そういう事なんだろう。
「お待たせぇ」
しばらくして、バケツ程のカップを抱えた早貴が戻ってきた。
香ばしく甘ったるい匂いが鼻をくすぐってくる。
一旦床にそれを置き、別の手に持っていた小さい方のカップを俺に手渡す。
「サンキュー」
「もうすぐ始まるよ!」
隣に座り、さっそくバケツの中からポップコーンを一掴みして口に放り込んだ。
キャラメル味。早貴は映画館に来ると決まってこれを欲しがる。
「あ、始まる!」
始まりを告げるサイレンが鳴り響き、突然止まる。
場内の照明が消えてスクリーンに命が宿った。
¨いってきまーす!¨
冒頭の、娘が登校するシーン。
母親には挨拶しているが父親には目すら合わせなかった。
作り物とはいえ実際これくらいの年頃の女の子というのはこういう感じなのか。
「あの子、どうして目を合わさないんだろ。私なら有り得ないよね」
口の中にお菓子を詰め込みながら呟いてくる娘を見て、安心してしまった。
さっきから食べ続けでちゃんと見ているのかと思ったが、心配無用だったな。
¨またあいつ見てくれなかった。どうしてなんだろうなぁ¨
¨仕方ないですよ、そういう年頃なんですから¨
¨そりゃあ分かってるつもりだが・・・ふう¨
場面は回想に切り替わり、スクリーンの中を楽しそうに走り回る幼少の娘が映し出された。
¨おとうさーん!あははは、はやく〜〜!¨
果たして今、この場内の何人の父親が自分の娘の小さな頃を思い出して目頭を熱くしているだろう。
あの頃は良かったと、しんみりしているのだろうか。
(・・・!)
手に柔らかいものを感じ、ふと見ると早貴が俺の手を握っていた。
「見てたら握りたくなっちゃった。こうしててもいい?えへへへへ」
「別に構わないが」
早貴は小さな頃から変わっていないな。
・・・でも、真っ暗とはいえここは人がいる場所だ。しかも何百人もいる。
右にも左にも人がいるんだぞ、分かってるのか早貴。