若芽の滴-11
(何なの?悪い人じゃないみたいだけど…?早く家に帰りたいよ……)
言いようの無い恐怖感が、汐里の心を埋めていく……自分を知っていて近付く男達は、みんなさっきの痴漢と同種に思えていた……ソレから来る恐怖感だと、汐里は思った……背後から感じる気配も、それもずっと、トイレにいた時から消えてはいない……汐里の本能は、身の危険を教えていたのだが、それを感じながらも黙殺してしまっていた。
「あの……私、帰らないと……あむ"ッ!?」
ずっと感じていた背後からの気配……それは、車内で息を潜め、襲い掛かる好機を狙っていた男の気配を消し去っていた。
『よっしゃ!楽勝だな』
『へへへ、元気がイイな……』
「む"お"ぉ"ぉ"ぉ"!!!も"〜〜ッ!!!」
静かにドアは閉まり、トロトロとミニバンは走り出した。
少女の姿が、街の中から消えた………。
『オマエん家行くか?ジジイもババアも部屋には来ねえだろ』
『テメ……人の親をジジイ呼ばわりか!』
『部屋ん中でヤルなら口塞がないとな。なんか布切れねえか?』
『俺のパンツを突っ込んでやるか?口開けよ、ホラぁ!!』
「ブハッ!!…やだ!!……誰か……え"お"お"!!!」
爆音で鳴り響くCDの音の中、男達に乱暴に扱われながら、口には男の履いてたトランクスが捩り込まれ、両手は後ろ手に廻され、手首は電気コードで束ねられた。
(だ、誰か気付いて!!お願い助けて!!)
車内から時折見える町並みには、楽しそうなカップルや親子連れが見えた。
だが、誰一人として、この派手なミニバンを見る者はなく、無関心を装ったまま、流れる景色に消えていった。
『へへ!まさかあんなトコで会えるとはな』
後ろから羽交い締めにされ、髪や制服を鷲掴みにされて藻掻く〈獲物〉を、男達は満足そうに見ていた。
『え〜と、プロフィールは……桑名汐里15才。〇△×の読モで人気急上昇。「ドラマや映画にも出たいな。優しく見守ってください☆」だとよ』
靴で踏まれてボロボロになった青年誌を広げ、汐里のグラビアを眺める男達。
そこには、乳白色のワンピースを着て、黄色の花冠を被り、悪戯っぽい笑顔を浮かべる汐里の姿があった。
少女趣味の男性が思い描く幻想そのままの、透き通るような清らかさで、カメラに向かって真っ直ぐな視線を向けていた。