ジャスミン-3
「豊の2年の片思いを思えば、莉子のひと月なんてまだまだ甘いよ!」
片思いに甘いも辛いもあるのかなぁ…なんて首をかしげながらも、ギターと芝居のこと以外、何をやっても長続きしない旬にまでそう言われることが甚だ悔しい。
彼が最近始めた深夜の交通整理のバイトだって、ちゃんと勤まっているのか心配になるほどなのに。
それでいてお人好しで憎めない旬は、姉御肌の里美と結託して、私と豊の仲を取り持とうと躍起になっている。
最近では、当人よりも彼らの方が熱くなっているくらいだ。
「莉子…アイツらの言うことなんか真に受けんなよ。莉子は莉子のペースでいいんだから」
コンビニの買い出しで崎谷と2人になった時、彼がふいにそんなことを口にする。
メンバーの中では1番冷静で大人な崎谷。
いつでもみんなの意見の調整役で、終始中立な立場を通していた。
マイペースでしっかり者…しかし時に気分屋。
崎谷のイメージをあえて言葉にするなら、そんなところだろうか?
一見取っつきにくそうにも見える彼だが、ここぞという時には頼りになる存在の崎谷。
しかし普段の彼は、まわりのことにあまり感心を示さないクールな一面もある。
だから突然そんなことを言い出した崎谷に、私は内心ビックリしてしまった。
「あ…うん。でも私、2人が言う通り、このへんで豊のことはっきりさせようと思って」
冗談ぽく笑ってそう言った私の手からコンビニ袋を受け取った崎谷は、無表情のままドアから出ていってしまう。
あれ?…今日の崎谷なんか変かも。
何となくそんな風に思いながらも、この時の私は、これ以上豊とのことを放置するのは限界だと感じていた。
腰履きしたジーンズのうしろポケットにレシートを突っ込みながら大股で先を行く崎谷の大きな背中を、私は慌てて追った。
そもそもどうして私は、こんなにまで豊のことが好きなんだろう?
ふとあらためてそんなことを考えてみる。
たしかに豊は見た目もかっこいいし、仲間達からの信頼も厚い。
物腰だってやわらかくて、彼のことを嫌う要素なんて何1つ見当たらない。
だけど実際問題…豊には長年思いを寄せる子がいるわけで、私に振り向いてくれる可能性なんて、奇跡でも起きないくらいないだろう。
そんな結果を望めない恋は、10代の頃に卒業したはずだったのに…。