投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

ジャスミン
【片思い 恋愛小説】

ジャスミンの最初へ ジャスミン 3 ジャスミン 5 ジャスミンの最後へ

ジャスミン-4

 背中に人の気配を感じ目を覚ますと、うしろから豊の腕が回されていた。

 「ん?ゆた…か?」

 「ごめん莉子…起こしちゃったか?」

 布団の中で温まった体とぼんやりした頭に、豊のやわらかな声が染み込んでくる。

 「…終わったの?」

 「うん…寝ようか」

 豊の脱力した腕が私のウエストに巻き付き、そこから彼の温もりが伝わってくる。

 …なぜだろう?

 彼は寝息を立てる私に背を向け、眠ってしまうことだって出来たはずなのにそうしなかった。

 もしかして、私が覚悟を決め豊の部屋に泊まったことに、目をそらさず向き合ってくれたのかな?



 今私が振り向けば、彼はきっとキスしてくれることだろう。

 それ以上を望めば、たぶんそれだって叶えてくれる。

 事実さっきから私の太ももあたりには豊の欲望の証を感じていた。

 何でもないように振る舞う豊の心臓だって、きっと私と同じくらい速いリズムを刻んでるはず。



 たしかにさっきまでの私は、豊に抱かれる覚悟をしてた。

 彼の気持ちが他の子に向いていて、これ以上2人の関係に進展が望めなくても、このどうにもならない豊への思いを鎮める為には、もうそれしか方法が浮かばない。

 1度だけ豊に抱かれ、それですべてを終わりにしよう。

 それがひと月の間、彼を好きでい続けた私の答えだった。

 それなのにどうだろう?

 こうしてすぐ近くに豊を感じているのに、彼の気持ちが今ここにないことがたまらなく苦しい。

 豊と体を重ねたところで、決して心が満たされることはないのだと、この時私は確信した。

 居たたまれなくなり、涙が頬を伝った瞬間…私はとっさに豊の腕をすり抜けていた。

 「どうした?莉子…」

 心配した豊がそう聞いてくる。

 「私さ…ちょっと水飲んでくるよ」

 「…うん」

 戸惑う豊の声を背中に聞きながら、私はそっと部屋を出た。



 ダイニングのソファーに、抜け殻みたいなふわふわした体を横たえる。

 冷んやりした合皮の側生地が、熱を帯びた私の皮膚から体温を奪っていく。

 シーンと静まり返るこの空間が、現実の世界へと私を引き戻していくようだ。

 今さっき豊の部屋で起きたことが、もうすでに遠い夢の中の出来事みたいに感じられた。

 「あーあ。結局何も始まらないまま終わっちゃったんだ…」

 声に出してそう言ってみたら、もう悲しみが止まらなかった。


ジャスミンの最初へ ジャスミン 3 ジャスミン 5 ジャスミンの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前