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ジャスミン
【片思い 恋愛小説】

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ジャスミン-2

 あーあ。こんなことなら、さっき里美と帰ればよかったな。

 いずれチャンスがきたら告白しようとは思ってたけど、目の前の予想外にそっけない豊の態度につい弱腰になる。

 里美…やっぱり私、うまく自分の気持ち、豊に伝えられそうにないよ。

 そうあきらめの気持ちを抱いた時だった。

 このひと月、彼と共に過ごしてきた楽しくせつない時間が、まるで儚い夢であったかのような錯覚に陥ってしまう。

 鼻の奥にツンッと痛みを感じた時にはもう、こみ上げる涙を止めることが出来なかった。

 あっというまに目の中で歪んでいく豊のうしろ姿をこれ以上見ていることが出来なくて、私は彼に背中を向ける。

 もう告白なんてどうでもよかった。

 どうせ叶わぬ恋なら、これ以上傷つきたくない。

 私は手の甲で涙を拭うと、眠気に身を任せるよう目を閉じた。



 ナンパ当日、崎谷にべったりだった里美から「崎谷と寝た」と報告があったのは翌日のこと。

 恋愛に関して、時に積極的過ぎる里美の行動には、いつもながら驚かされる。

 でもそんな一途な思いをぶつけた彼女と崎谷の関係は、残念ながらその後あまり順調とは言えなかった。

 「崎谷がいまいち乗り気じゃないんだよね…」

 里美はそう言ってふくれっ面しながらも、崎谷とは肉体関係ありの友達を今も続けていた。



 豊と崎谷は、ギターが得意な高校時代からの仲間…旬と一緒に、マンションのワンフロアをシェアして暮らしている。

 東京の杉並で1人あたり4万で3DKのマンションに住めるのは、かなりお得度が高い。

 おまけに豊達が暮らす4階には、ダイニングから続く広いテラスまで付いていた。



 豊と旬は同じ劇団に所属する役者仲間でもある。しかしまだ、役者の仕事だけでは食べていけない為、それぞれがバイトをしながら生計を立てている。

 崎谷は親の仕送りで、この沿線の私大に通う4年生。この不景気で就活が難航しているようだった。

 実家が裕福で家事手伝いと称して遊び暮らす里美と、病院の受付事務をしている私は、小学校からの幼なじみ。

 そしてそんな5人は、偶然にも同い年だった。

 私と里美の家が練馬と近いこともあって、彼らの家にはちょくちょく顔を出している。


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